2009年07月06日

あなたは国際交流コンプレックスです(症例10)



十 大学時代


 ショートステイから帰ってきた後、アメリカにいった二十人ばかりの生徒全員が、感想文を書いた。感想文は、文集になって配られた。ケイは、黒人と白人の学生が休み時間、別々に行動していることは書かなかった。黒人と白人が休み時間話し合ってないとスコットの父に言ったら、そんなことはないと強く反論されたことも書かなかった。早く日本に帰りたいと思ったこともあまり書かなかった。
 アメリカの英語は早くて聞き取りにくかったけど、ケイは英語の読み書きはそれなりにできた。リスニングのテストも、大学入試のレベルでは聞き取ることができた。ケイは大学試験を受けて、東京都内の大学に進学した。
 大学には、世界各国からの留学生がたくさんいたし、外国人の教官も多かった。英会話のクラスは、抽選制だった。一年生の間には、どの教官が試験を通りやすいかという情報が流れていた。試験を通りやすい教官は、抽選でも人気となった。ケイは、人気のないマンキューソという教官を選んだ。
 マンキューソは、試験の評価が厳しく、授業中によく怒ると噂されていた。マンキュー最悪と、、上級生みんなが言う。しかしケイは、嫌われ者のマンキューを教官に選んだ。
 実際授業を受けてみると、マンキューソはただ個性が強いだけだと思えた。そんなに学生に無理難題を課すわけでもないし、ジョークをよく言う。ケイは難なくマンキューソの試験を通過した。
 大学では、英語の他に第二外国語の選択もあった。入学前に、ドイツ語、フランス語、ロシア語、中国語の中から、第二外国語の希望を選ぶ。ケイは第一希望中国語、第二希望ドイツ語、第三希望フランス語で応募した。抽選の結果、ケイはドイツ語のクラスになった。
 ケイは別にドイツ語を使いこなせるようになりたいと思ったわけでない。ドイツ語を勉強する目的はただ単に、大学を卒業するためだった。
 英語と第二外国語の他に、数学か第三外国語のどちらか四単位を選択する必要があった。外国語も数学も嫌いなケイは、二年生になって仕方なく、第三外国語としてフランス語を勉強することにした。
 二年生冬学期のフランス語のテストは、一夜漬けでの挑戦だった。授業にもあまり出ていない。ケイは解答用紙の最後に、「数学も苦手です。外国語も苦手です。けれど、ここで単位を取らないと三年生に進級できません。お願いします。単位をください」と、願いを書き綴った。しかし、試験結果は落第、ケイは三年生に進級できず、留年した。
 二回目の二年生で、ケイは別の教官のフランス語の授業をとり、必修の単位を満たした。フランス語もドイツ語同様、個人的に学びたくて学んだ言語でなく、卒業するために勉強した言語だった。大学受験の勉強同様、試験に受かるための外国語学習だ。文法や単語は覚えたけれど、試験後すぐほとんど忘れたし、フランス語やドイツ語の会話や文学を楽しめるほどの語学力は身につかなかった。
 三年生から、ゼミナールの選択がある。ケイはあれだけ外国語が苦手なのに、ゼミナールの専攻に文化人類学を選んだ。ケイは個人的に哲学や文学に興味があったけれど、哲学も文学も、ゼミの内容が古臭くて、つまらなそうだった。外国文化の実地調査を重要視する文化人類学の方が、今世界で起きている様々な問題とつきあうには、哲学や文学よりも適していると思えた。
 ケイは、スリランカでの宗教対立を専門とする教官のゼミに応募した。内戦続くスリランカにはそんなに興味がなかったけれど、教官の授業や知識に魅了されたので、応募した。
 ゼミ選考は教官室での面接となる。ケイは就職して働くのが嫌だったので、大学院にすすんで研究者になろうとも思っていた。
「大学院にすすみたいとも考えています」と言うと、教官は、「何を読んでいますか?」と言った。ケイはゼミ選考の参考資料に載っていた、教官の推薦図書であるブルデューとトドロフの本しか読んでいなかった。
 大学院に進学しようと思っている人は、二年生の終わりの時点で、明確な目標を持って生活を組み立てているのではないか。ふわふわした夢や理想など、毎日の勉強の積み重ねに負けてしまうのではないか。教官に質問されて、準備不足を痛感したケイは、簡単に大学院生になる夢をあきらめた。

SF総論〜ヴォネガットからマクロスFへ〜秋葉原カルチャーの再肯定

photo
SFはこれを読め! (ちくまプリマー新書)
谷岡 一郎
筑摩書房 2008-04
おすすめ平均 star
starドブッテル
starSFファンなりたての方、ちょっと気になる方、必読
starSF俺のランキング

SFが読みたい! 2009年版―発表!ベストSF2008国内篇・海外篇 (2009) 日本SF全集・総解説 竜の卵 (ハヤカワ文庫 SF 468) あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF) 20世紀SF〈4〉1970年代―接続された女 (河出文庫)

by G-Tools , 2009/07/06



全然読む気のなかったSFをここ数ヶ月何故集中的に読むようになったのか。きっかけは池澤夏樹の世界文学講義だった。池澤夏樹が講義の中で、ヴォネガット『スローターハウス5』にある「人生について知るべきことは、すべてフョードル・ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の中にある。だけどもう、それだけじゃ足りないんだ」という言葉を引用してくれた。池澤夏樹が、僕がSFに目覚める最初のとっかかりになった。

ヴォネガットからクラーク、アシモフ、ブラッドベリ、ヴェルヌ、ウェルズ、ディック、バラードとSF世界が広がる。アシモフのロボットものを読んでいる時は、手塚治虫の火の鳥シリーズによく似た話がたくさんあったと思った。SF映画を撮っているスピルバーグも見てみる。スピルバーグの映画と藤子不二雄のマンガは、家族向けな作風がよく似ていると感じた。SFというジャンルの創始者、ヴェルヌの『海底2万里』は、『不思議の海のナディア』の原作だし、ナディアからエヴァンゲリオンへ、エヴァからガンダム、マクロス、アクエリオン、攻殻機動隊へとつがなる。長い遍歴を終えて(まだ途中だけれど)、結局SFの現時点最終到達地点は、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」だと思えた。別の経路として、オーウェル「1984年」から村上春樹「1Q84」へとつながる道も見えたけど。

初期SFは文明批評であり、社会、歴史、政治とつながっていた。現代のSFはキャラクター重視、偏愛の対象、オタク化、タコツボ化して、社会批判の威力を失ったと思ったけど、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」は現代日本で作られているどんな他ジャンルの作品よりも、社会的問題意識を放っていた。萌え系SFアニメの代表格的マクロスシリーズも、単なる萌えではなかった。アイドルが歌うラブソング、カルチャーが、殺し合いを終結させる。結局、真面目な議論、革命、クーデーター、暴力では平和は生まれない。ベルリンの壁の崩壊は、自由な文化から生じた。音楽が世界を愛で包み込む。マクロスが提示した解決の仕方はすごい。

音楽は戦争を終わらせるけれど、同時に戦争に利用されもする。争いや征服とは何も関係ない神秘の歌が、戦意高揚のため、軍歌化される悲劇。音楽及び萌え文化と政治、戦争の関係性を問題意識化するマクロスF(フロンティア)はやっぱりすごい。SFの旅を続けてみて、秋葉原の萌え系カルチャーは、世界史的にみてもとても大切な文化変動だということがわかった。秋葉原的なカルチャーが何故世界中の人に愛されるのか。何故水木一郎が世界で知られる日本人となるのか。カルチャーが世界を平和にする。そうした意識を持ちつつ、カルチャーの創造に向かうこと。カルチャーを広めることで、世界中の様々な問題が解決するのではないか。青臭い理想論だけれど、未成熟な人間は、理想を追い求める。ただひたすら、求めて。

photo
マクロスF(フロンティア) 9 <最終巻> [Blu-ray]
中村悠一, 中島 愛, 遠藤 綾, 神谷浩史, 河森正治
バンダイビジュアル 2009-04-24
おすすめ平均 star
starまずFから入りました。
star気合の入った新時代のマクロス!
starFしか見てない人は他のも見よう
star最高のラストバトル
star全話通して同じ画質なので安心感

マクロスF(フロンティア) 8 [Blu-ray] マクロスF(フロンティア) 7 [Blu-ray] コードギアス 反逆のルルーシュ R2 volume09<最終巻> [Blu-ray] マクロスF(フロンティア) 6 [Blu-ray] 機動戦士ガンダム00 セカンドシーズン 3 [Blu-ray]

by G-Tools , 2009/07/06

posted by 春昼 at 23:44 | TrackBack(0) | 小説論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゲーム評:任天堂『スーパーマリオブラザーズ』(Wiiバーチャルコンソール)

photo
スーパーマリオブラザーズ
任天堂 1985-09-13
おすすめ平均 star
starアクションゲームに革命をもたらした作品であると思う。
star世界一売れたゲーム
starファミコンゲームの頂点
star世界遺産
starアクションゲームの原点

スーパーマリオブラザーズ3 ネオファミ(クリムゾンレッド&ホワイト) ドクターマリオ ファミレータ ドラゴンクエスト

by G-Tools , 2009/07/06



Wiiのバーチャルコンソールでファミコンのスーパーマリオブラザーズをダウンロードした。小学生時代は、全面クリアできなかった。スパマリをやってたころから23年近く経った後の今なら、きっと8−4をクリアできると思ってやってみた。

スーパーマリオブラザーズは、Wiiのバーチャルコンソールでダウンロード1位らしい。始めてみると、マリオの動きにくせがあって、動かしにくい。マリオってこんなだったっけて思った。わりとすぐ死ぬ。23年の経験は何だったのかと思ったけど、すぐ馴れた。

8−3をクリアし、8−4へ。ワールド8はめちゃくちゃ難しい。職人芸的なプロの技がないと、クリアしていけない。ハンマーブロスと猛烈なバトルを繰り広げる。最後のクッパでやられて、いまだ全面クリアできず。僕の腕があがったから、8−4のクッパまでたどりつけたわけではないと思った。グーグルのおかげで、クッパまでいけた。グーグルで攻略情報を検索すれば、正解のルートや隠れスーパーキノコの場所がすぐ出てくる。23年前も攻略本はあったけれど、わざわざ買わなかった。グーグルならすぐに攻略情報を入手できる。僕個人が成長したおかげでなく、人類全体の情報技術が発達したおかげで、8−4のクッパまでいけた。ピーチ姫救出までもう少しだけど、クッパが強くていけない。

歩いているだけで楽しい。ボタン操作もゲームシステムも単純明快。楽しい。操作するだけで楽しいって、生きているだけで楽しいのと同じことだ。読んでいるだけで楽しい小説、見ているだけで楽しい映画、絵画、写真、ただ十字ボタンに触っているだけで楽しいゲーム。接しているだけで楽しいって、恋愛みたいなもの。ひねったストーリーも難しい操作も不要。単純さの理想系。スーパーマリオブラザーズはやっぱりすごくて、大人になった今でもたくさんのことを教わった。
posted by 春昼 at 23:19 | TrackBack(0) | ゲーム評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アニメ音楽評:菅野よう子『マクロスF VOCAL COLLECTION「娘たま♀」』

photo
マクロスF VOCAL COLLECTION「娘たま♀」
菅野よう子
JVCエンタテインメント 2008-12-03
おすすめ平均 star
starこれで正解ヽ(^。^)ノ
starマクロスフロンティア良いね^^
starマクロス好きは買い!
star良いです
star満足です

シェリルの宇宙兄弟船 ランカとボビーのSMS小隊の歌 メイン☆ストリート マクロスFO.S.T.2 「娘トラ。」 マクロスF(フロンティア) 6 [Blu-ray]

by G-Tools , 2009/07/06



昔のSFは文明批評だったのに、最近のSFは萌え系で文明批評の威力を失ったなんて嘆いていたけれど、いわば萌え系SFの代表格というか創始者のマクロスシリーズ最新作のヴォーカルサントラを聞いて、菅野よう子が作り出す楽曲のあまりのクオリティーの高さに驚愕し、転向しました。SFは今あるマクロスF的な姿でハッピーなのだと。

アイドルが歌を歌うことで、戦争が終わる。戦争することが馬鹿らしくなる。すばらしいカルチャーの力を紛争溢れる世界に示すこと。マクロス。

音楽は戦争を終わらすこともできるけれど、音楽が戦意高揚に利用されることもある。当マクロスFのボーカルベストアルバムには、「アイモアイモ」と歌う神秘的、民族音楽的な歌の軍歌バージョンも収録されています。歌がもっていた本来の意味が剥ぎ取られ、戦意高揚の歌詞をつけられ、国家に強制されて歌わされる悲劇。萌え系オタク文化を批判する文脈は多々ありますが、マクロスFは、この楽曲にまつわる悲劇的展開を作り出すことで、アニメカルチャー批判をはねつけるストーリーを生み出しました。

音楽は戦争を終わらせる力を持つけれど、戦争は音楽をも利用する。そのドラマを萌え系アニメにしたマクロスはすごい。そんな薀蓄抜きにして、菅野よう子の楽曲がすばらし過ぎてすごい。デカルチャー。
posted by 春昼 at 23:08 | TrackBack(0) | マンガ・アニメ評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

SF書評:アシモフ『われはロボット』



ヴォネガット、ブラッドベリ、バラード、ディック、ギブスンなどのSFを読むと、ステレオタイプとして刷り込まれているSFのイメージとちょっと違うと思える。ウェルズやヴェルヌの小説を読むと、SFの源流だと感じる。アシモフやクラークの小説を読むと、これぞSFのステレオタイプイメージにぴったりと思える。まさしくSFを代表する作家のロボット短編集。

冒頭に有名ならロボット三原則がたてられている。

1、ロボットは人間に危害を加えてはならない。
2、ロボットは人間から与えられた命令に服従しなければならない。
3、ロボットは第1条および第2条に反しない限り、自己を守らなければならない。

ロボット三原則に基づいて作られるロボットたち。しかし、違反もある。自分よりも愚かに見える人間たちが、自分を作ったはずがないと考える賢いロボット。人間になりすまして、政治家になるロボット。連作短編に繰り返し登場する、人間よりもロボットを愛する女性科学者。

ロボット三原則全てに従う場合、彼はロボットかもしれないし、善良な人間かもしれないという警句。ロボットが人間を支配した方が、人間は幸せになるのではないかという嘆き。SFの良質なイメージの全てがつまっている、SFのオール・タイム・スタンダード。

アシモフを読まずに21世紀を過ごすのはもったいない。
posted by 春昼 at 22:59 | TrackBack(0) | 書評(人文科学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする