2010年10月12日

ブログ小説「乳精卵」(9)母乳テロ説を検証してみた

目を凝らして見る。降っている小雨も白かった。

初秋だし、いくら異常気象でも、みぞれが降ってくるわけがない。白い雨は液体のみで構成されている。白いのだから、水分子以外の、何らかの化学物質が混ざっている。

水たまりの近くに寄ってみた。水は白く濁っている。雨水の中に牛乳でも混ぜたみたいだ。

何だこれは? 一体何が降っているんだ?

僕の部屋の水道を乳液化したり、どろどろの黄色い液体にした組織が、白い雨を降らせているのだろうか? 北朝鮮あたりのテロリストの仕業だろうか。

人為的テロ行為ではなく、自然現象、あるいは公害だと考えられなくもない。中国の黄砂が日本海を渡って、日本列島に降り積もることもある。中国の工場排水によって汚染された水が、雨となって東京に降り注いでいるのかもしれない。

しかし、これでは僕の部屋の水道から、白や黄色の液体が出てきた理由にはならない。やはり何らかの組織が、関与していると考えた方がいいのだろうか。

例えば、雨雲の上にたくさんの成人女性がいて、乳を搾られているとか。

巨大空母のハッチから、体を縛られた上半身裸の女性が吊るされている。彼女たちの乳が搾られて、東京に母乳まじりの雨が降っているという可能性はないだろうか。

中学二年生の妄想みたいだが、可能性は捨てきれない。ブレインストーミングを続けよう。

巨大空母の中に牛が牧畜されており、どこの農家にもある人工乳絞り器によって、牛の乳が搾取されている可能性はないだろうか。

人間の女性が母乳を搾取されているとしたら、おっぱい剥き出しだし、性的虐待を受けていると言える。人道的に問題である。しかし、牛が乳を搾取されている場合、牛にとっては牧場の中で搾取されるのも、空母の中で搾取されるのも変わりはない。人間の女性より、メスの牛が母乳を搾取されている可能性の方が高い。

空母の中は気圧が高いから、牛は不快かもしれない。牛のためには、空母の中で搾取するのでなく、いつものように農家の牧場で搾取する方がよいだろう。

牧場で搾った牛乳を空母に輸送して、腐らないうちに上空からばら撒いた方が、人間にとっても、牛にとっても効率的だ。いや、腐るのを待ってからばら撒いた方が、日本人に攻撃するのには、好都合かもしれない。

人間の場合でも同じだ。地上で搾取した母乳を空母に運んで、ばらまいた方が、人体空輸コストを考えると経済的だ。

若い組織員に自爆テロを薦めるようなテロリスト幹部でも、訓練した女性兵士の乳を搾取することは、さすがにないだろうと思う。乳を搾られているのは、おそらく誘拐後、監禁された日本人女性だろう。

牛の乳をばらまくより、日本人女性の搾りたての母乳を空中散布する方が、日本人に対する精神的ダメージも大きいだろう。これは、母乳テロと呼べる。

ゆくゆく考えると、自爆テロをするよりも、爆弾を敵国市民の誰かのポケットにこっそり入れて、後で爆発させる方が、兵士の損失もないので合理的だと思えるが、自爆テロには自爆という自己犠牲行為に英雄的賞賛を与える意味があるのかもしれない。

自己犠牲の精神を尊ぶという観点からしたら、日本人女性の乳を搾るより、自分たちの部隊の女性兵の乳を搾る方が、テロリスト的には正解なのかもしれない。

「よくごこんな屈辱に耐えてくれた、君の組織に対する貢献は賞賛に値する」などと男性幹部が、母乳を提供した若い女性兵士をねぎらうのだ。

いや待て、自爆テロの場合は、自身の命を捧げることによって敵国民の命を奪うことができるが、母乳テロでは、敵国には何のダメージも与えていないじゃないか。

「自分たちの女性兵の母乳をばらまいた」なんて後で犯行声明を発表しても、笑い話になるだけだ。これではテロ行為になっていない。

可能性は絞られた。白い雨が降る原因として、三つの仮説が考えられる。第一に、誘拐された日本人女性の母乳が、雨の中に混じっているという母乳搾取テロ説。第二に、有害物質である白い液体が、雨の中に混じっているという化学兵器テロ説。第三に、中国などの工場から排出された汚水によって、雨が白く濁ったという公害説。

もう一つ、第四の仮説がある。雨水が白く見えるのも、僕の部屋の水道が白と黄色に変色したのも、僕の錯覚ではないかという説だ。
(続く)



(執筆後記)
1日1話連載予定でしたが、さすがにそのルーティンワークは規律訓練的だし、コントロールする近代権力的だし、いつか体が壊れると思えてきました。ネイティブ・アメリカンの織物みたいに、作りたいという気持ちと、時間的余裕がある時だけ、小説を作ることにしました。といっても、休載期間が広大にあくわけではありません。最低2、3日に1回は、次の章を掲載するスタイルで、連載を続けたいと思います。

ブログは基本毎日更新していきますし、ツイッターではツイッター小説の投稿を継続していきますので、今後ともよろしくお願いします。


posted by 野尻有希 at 00:21 | TrackBack(0) | 小説「乳精卵」(完結) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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