2012年09月17日

書評:東浩紀編『日本2.0 思想地図βvol.3』〜日本を新しくするための新しい思想、文化を求めて

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日本2.0 思想地図β vol.3
東 浩紀 村上 隆 津田 大介 高橋 源一郎 梅原 猛 椹木 野衣 常岡 浩介 志倉 千代丸 福嶋 麻衣子 市川 真人 楠 正憲 境 真良 白田 秀彰 西田 亮介 藤村 龍至 千葉 雅也 伊藤 剛 新津保 建秀
ゲンロン 2012-07-17

思想地図β vol.2 震災以後 思想地図β vol.1 都市と消費とディズニーの夢  ショッピングモーライゼーションの時代 (oneテーマ21) 独立国家のつくりかた (講談社現代新書) コミュニケーションのアーキテクチャを設計する―藤村龍至×山崎亮対談集 (建築文化シナジー)

by G-Tools , 2012/09/17



東浩紀編『日本2.0 思想地図βvol.3』は、「アキハバラ3000−サイパン」という特集で始まる。東浩紀、志倉千代丸、もふくちゃんこと福嶋麻衣子の3人が未来の秋葉原の仮想キャラクターを演じるコスプレグラビアの後に、秋葉原について3人が語る座談会が続く。

前号『思想地図βvol.2』は、震災後を意識し、アニメ、マンガ等のオタク文化に関する記事は影を潜め、社会問題中心の「まじめ」な紙面構成だった。今回の紙面には、秋葉原文化、憲法問題、ジャーナリズム、アート、日本の中東外交、ギャル男、クイズなど、多様なテーマの記事が並ぶ。本書全体を貫くテーマは、震災後の日本はどのような方向に向かうべきか。日本をver2.0にバージョンアップさせるための視点が、雑誌化されている。

震災と原発事故が過去のものになったから、秋葉原に回帰したわけではない。震災後、原発事故後を踏まえて、秋葉原の存在意義が問われることになる。巻頭の秋葉原座談会は、秋葉原をいかにグローバル都市として戦略的に展開するか、アニメ、マンガ、ゲーム、初音ミクのカルチャー、コンテンツをいかに世界に展開するかという視点で、議論が展開する。初音ミクなどのカルチャーは、トップダウン式でなく、オタク達のボトムアップで展開してきた。故に戦略を決めて計画的に物事を進めていこうとするビジネス的な議論は、オタク的には嫌われる内容だが、続く村上隆の「芸術家の使命と覚悟−ドーハ」を読むと、世界市場を相手に、戦略的に振舞うことの重要性が意識されてくる。

アートには、戦略と戦術が必要。日本人であることの文化的背景を伝え、異文化交流した上で、自分の主張をきっちり伝えることが必要。ヴェルサイユ宮殿での展覧会に続き、カタールのドーハで「五百羅漢図」の大規模な展覧会をした村上隆の言葉は、説得力がある。東が、世界市場を意識した戦略が必要だと、日本の「文化人」としては珍しいビジネスライクな発言をするのも、世界市場で活躍する村上隆との交流があるからだろう。

東の周囲にいる人間の変遷を見ると、『思想地図』の変わったもの、変わらぬものが見えてくる。論壇デビュー後、柄谷行人、浅田彰らと決別した東浩紀は、デリダ研究者らしからず、日本のオタク文化批評家としての評価を高めていく。雑誌『思想地図』は、東と社会学者北田暁大との共同編集で始められたが、『思想地図β』には北田の姿はない。東に合流し、最近はAKB48を熱く語る新書を出した宇野常寛や濱野智史の文章も、最新号にはない。代わりに今号で東と同席しているのは、梅原猛、津田大介、現代アートの若手黒瀬洋平らである。

梅原猛と東の対談では、原発事故後の哲学の問題が語られる。ハイデガー批判、西田幾多郎やデリダの名前も出てきて、原発事故後の日本から、世界に発信するべき独自の哲学が語られる。

東、椹木野衣、黒瀬洋平の座談会「3.11後の悪い場所−−東京」では、震災後の日本におけるアートのあり方が議論される。戦後日本は、世界の美術のスタンダードが根付かず、実生活と美術が乖離している「悪い場所」と定義した椹木は、震災によって何もかも押し流された現在の日本に、美術の力が必要だという。欧米式の建築する美術は、自然災害の多い日本では、簡単に流されてしまう。災害の現状と、災害後の喪失を描く美術に、日本だけの現代美術の使命が見出される。

総じて『日本2.0』は、日本を新しくするための新しい言葉、文学、アート、文化、哲学、思想、憲法を求めている。新しさを日本に求めるだけでなく、日本を世界に広く伝え、主張しようとする雑誌である。


posted by 野尻有希 at 22:46 | TrackBack(0) | 読書論(哲学・現代思想) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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