2015年07月14日

『のんのんびよりりぴーと』が提示する新しい無限ループの文法



夏アニメの新番組が始まった。個人的におすすめ順は『ケイオスドラゴン』、『シャーロット』、『監獄学園』、『のんのんびよりりぴーと』、『ゴッドイーター』である。新番組の中でも『のんのんびよりりぴーと』の文法に新しさを感じた。今までの日本ギャグアニメの伝統を受け継ぎ、かつ刷新する新しい無限ループの文法を『のんのんびよりりぴーと』は紡いでいるだろう。

無限ループといえば、SFである。ハリウッドでいえば、クリストファー・ノーラン監督『インセプション』、『メメント』、あるいは『バタフライエフェクト』、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(日本のライトノベル原作)など。日本のオタク文化作品でいえば、京都アニメーション『涼宮ハルヒの憂鬱』における『エンドレスエイト』、あるいは『ひぐらしのなく頃に』、『STEINS;GATE』、『魔法少女まどか☆マギカ』、『リトルバスターズ!』、『火の鳥異形篇』など、いわゆるループものはたくさんある。

SF作品において無限ループは、SF的ギミックとして登場する。一方『サザエさん』、『ちびまるこちゃん』、『ドラえもん』、『うる星やつら』、『らんま1/2』、『らき☆すた』、『みなみけ』などギャグアニメにおける無限ループは、お約束的前提として、作品の中に登場する。すなわち、ちびまるこちゃんやのびたくんは、何年経っても同じ年齢で、同じ日常を繰り返す。運動会や文化祭などの季節イベントが毎年発生するにもかかわらず、登場人物は成長も老化もしない。

押井守監督の映画『うる星やつらビューティフルドリーマー』は、高橋留美子的ギャグマンガにおける無限ループの非実在性をSF的問題として逆照射して見せた。そういう稀有な例もあるが、だいたいにおいて日本のギャグアニメは、主人公が何年経っても同じ年齢である前提で作られてきた。

押井守監督と異なる形で、この慣習に一石を投じたのは、京都アニメーション『けいおん』であった。軽音楽部のメンバーは、1年生から始まり、高校を卒業し、マンガ原作版では大学にも進学した。大学編がアニメ化されていない点からして、やはり高校時代を無限ループするのは、様式美として必要だったのではないかと反省されさえした。

2015年の夏、ギャグアニメにおける無限ループの文法に対して、新しい解決策というか問題提起が行われた。それが『のんのんびよりりぴーと』である。

『のんのんびよりりぴーと』は、田舎のほのぼのした生活を描いたギャグアニメ『のんのんびより』の第2期である。

第1話「一年生になった」は、主人公れんげの小学校入学前後の話だった。これは1期1話より時間軸が前の話である。2期の物語は1期最終回の続きから始まると思っていた視聴者は、前日譚なのだと気づくまで時間がかかっただろう。

2期第1話は、メイン登場人物の一人、蛍が東京の小学校から転校してくるところで終わる。1期の1話は、蛍の転校で始まったことを1期からのファンは思い出したはずだ。ああ、2期の1話はアニメオリジナルエピソードの前日譚特別編なんだな、2話から1期最終回後の物語が始まるんだろうと、推理したアニメファンも多かったのではないか。

しかし、事態は予想外の展開を見せた。2期の2話「星を見に行った」は、蛍が田舎の学校に転校する場面から始まった。これは1期の1話と同一時間軸の物語である。筆者などは、なんだ、何が起きたんだとしばらく気が動転した。やがてテレビ画面では、1期1話で語られなかったエピソードが綴られた。

田舎の学校では遊び道具も少ない。登場人物たちは定規をぶつけあって遊ぶ。極度の田舎で商品も情報も少ないからこそ、定規をペンではじいて、相手の定規を机から落とすゲームさえ楽しい。持つもの少なく、時間がありあまっているからこそ、たち現れるさりげない日常の喜び。『のんのんびより』に典型的なほのぼのエピソードである。1期において、このエピソードは語られなかった。

ここで視聴者は、2期のタイトルが『のんのんびよりりぴーと』だということに気づく。

学校の1年は、365日ある。1期では、そのうちごく一部だけが語られた。2期は、1期と同じ時間軸で起きた出来事のうち、語られなかった出来事を語る試みなのだ。

ギャグアニメは、4月になれば桜が咲く。しかし、主人公達は年を取らない。4月になっても同じ学年というSF的設定を製作者と視聴者は共犯関係のもと受け入れる。『のんのんびよりりぴーと』はその罪を犯さない。ただし、無限ループをあからさまに拒否するわけでもない。1話では意図的に1期の前日譚を見せ、2話で1期の1話と同一時間軸で起きた見知らぬ出来事を語る。2話に接した後、視聴者は、零れ落ちたエピソードの拾い直しなのだという前提を受け入れる。

これは新しい試みだ。『エンドレスエイト』みたく、同じ話をちょっとだけ変えて、延々繰り返すわけではない。そんなつまらないことはしない。『けいおん』みたく進級するわけでもない。無限ループの新しい体験だ。

田舎の緩い生活を見せて、オタクから絶大の支持を得る。『のんのんびより』製作陣は、純粋素朴な田舎アニメを作っているわけではない。したたかに、日本ギャグアニメの歴史を更新しようとしているのである。物語の新しい文法を見せてくれたのである。
posted by 野尻有希 at 22:53 | TrackBack(0) | マンガ・アニメ論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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