2015年08月02日

アニメ論『WORKING!!!』アンチ恋愛社会の中でいかに異性愛を行うか

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by G-Tools , 2015/08/02



『WORKING!!!』は、ファミリーレストランを舞台にしたラブコメ『WORKING!!』のアニメ第3期である。ファミレスのラブコメものと聞いて、そんな設定よくあるなと思った私は、見ないですごしていた。しかし、某サイトの2015年夏アニメ期待度ランキングでは、『WORKING!!!』が『のんのんびよりリピート』を抜いて首位だった。みなが評価するならと思って3話から見始めた。はまる。翌日、dアニメストアで1期と2期の全話を見た。なんでもっと早く見ておかなかったのかと後悔した。

何故後悔したのか。『WOKING!!』は、恋愛も結婚もしない現代日本社会の実像を捕らえたアニメ作品と思えたからである。

過去に比べて、日本の若者は恋愛も結婚もしなくなっているという。一人でいることの寂しさは、ネットやスマホの普及で軽減された。検索すれば、何故こんなきれいな人がと驚くような女性がアダルトビデオ作品に出演しており、低額もしくは無料でアダルト作品を見放題である。性的欲求を満足させるため、リアルな異性を求める必要性が小さくなった。これは女性の場合も同じで、女性を対象にしたアダルト作品がネットでは普及し始めている。

一人でも暮らせるようサービスが充実したのは、アダルト業界だけではない。24時間営業のコンビ二が普及し、生活は便利になった。自立が叫ばれ、二人で暮らす必要性が小さくなった。子供を育てようとすると、逆に生活費がかかる。好きな人と付き合っても、すぐに恋愛の熱は冷める。痴話げんかなど面倒ごとが増える。なら、一人で生きていた方がいい。人間嫌いなわけじゃないけれど、一人の方が気楽だ。性は面倒くさい。そんな社会状況の変化に呼応するように、アニメにおける恋愛の描き方も変わった。

萌え系アニメでは、異性の存在が排除されるようになった。たとえば、『けいおん』では、男がまったく登場しない。『けいおん!』の主人公たちが通う高校は、男がぜんぜん出てこないから女子高なのだろうが、彼女たちの高校が女子高だとは説明されない。主人公たちの家庭にも、当然男性は姿を現さない。視聴者も、女性しか出てこないと言われなければ、気づかない構造になっている。男性の隠蔽である。

異性を排除するのは、『ゆるゆり』も同じである。女性の萌えキャラ同士の淡い百合的恋愛感情が描写される『ゆるゆり』にも、男性は一切出てこない。この百合傾向というか同性愛的傾向、その裏返しとしての異性排除傾向は、『のんのんびより』、『魔法少女まどか☆マギカ』、『ユリ熊嵐』でも同じである。これらの作品では、ヒロインたちが友情とも恋愛ともとれる感情をもとに愛し合う。彼女たちの周囲に男性は姿を現さない。

何故萌えアニメでは、男が姿を現さないのか。男性視聴者にとって、萌えキャラは恋愛対象というか崇拝の対象である。ヒロインはたとえフィクションの中でも異性に恋をするのは許されない。『かんなぎ』という作品では、ヒロインが物語の途中で男性キャラに恋する展開になった。これに対してファンから猛反発が生じたという歴史もある。

萌えヒロインは恋愛してはならない。許されるのは、同性愛的感情のみである。そのような近代ドラマ史にとって異質な状況が、ここ数年の日本アニメでは生じていた。

さて、その状況に一本鋭い釘をつきたてているのが『WORKING!!』である。もちろん『WORKING!!』のほかにも異性愛を描く作品は無数にあるが、『WORKING!!』はその方法が意識的だ。現代萌えアニメの状況は危ないのではないかという批判的意識、作家性が前面に出ているのである。

本作品のメインヒロイン種島ぽぷらもまた、他の萌えアニメ同様背が低く、声が幼い萌えキャラである。1期1話で主人公の小鳥遊 宗太(たかなし そうた、以下たかなし) は、ぽぷらに好意的感情を見せる。

ぽぷらに対する感情は恋愛感情ではない、自分は小動物や子供など小さいものが大好きで、ぽぷらに対する感情も、小動物に対する感情と同じものだ。ロリコンかといわれると、ロリコンではない。自分の感情はミニコンのようなものだ、とたかなしは主張する。つまり、この物語初期の時点で明確に、たかなしはポプラに対して異性愛的感情を有していないことが表明される。

続いてたかなしの前にサブヒロインの伊波まひるが現れる。伊波は極度の男性恐怖症で、男性が近くに来ると、殴り飛ばしてしまう性質を持つ。元ヤンキーの女性店長は、たかなしに伊波の世話役を命じる。たかなしは、自分より1歳年上の伊波に興味がない。伊波は、男性であるたかなしが来ると、ついつい殴り飛ばしてしまう。二人がかかわることは、二人にとってよいことだと店長は言う。

旧来の萌えキャラヒロインであるぽぷらは、旧来の萌えキャラ価値観のまま、恋愛ゲームに巻き込まれない。恋愛ゲームを演じるのは、たかなしと伊波である。小さくてかわいいものにしか興味がなくて、同世代の女性には恋愛感情を持たない主人公のたかなし。そして、男を見るとついつい殴ってしまうサブヒロインの伊波。普通に考えて、二人が恋愛する可能性はない。そんな二人がファミレスのバイト中にかかわるうちに、淡い恋愛感情が芽生えていく。これが『WORKING!!』のメインプロットである。

たかなしと伊波のほか、サブプロットとしてもう一組も恋愛する。ファミレスのフロアチーフ役、轟 八千代(とどろき やちよ) とキッチン担当、佐藤潤の片思いゲームである。

いつも笑っている八千代は、元ヤンキーの店長を猛烈に慕っている。それは同性愛と呼べるほどの熱烈な親愛である。一方、佐藤はイケメンだが、無表情無感情で、人あたりが悪い。この恋愛べたな二人の間にも、ゆっくりと恋らしき感情が進展していく。古来より恋愛ドラマにおける三角関係は、一人の異性をめぐって二人の同性が争うものだが、八千代をめぐる佐藤のライバルは、八千代と同じく女性の店長となる。この三角関係は新しい。

メインヒロインのぽぷらは、何があっても恋愛ゲームの中に入らない。萌えキャラは萌えキャラとして神聖不可侵の性領域を確保しつつも、その周囲でぎくしゃくした恋愛が進展する。ああ、『WORKING!!』は萌えをやりつつも、萌えの中でいかに異性愛を描くかという問題に真剣に立ち向かっているんだなと、見ている最中感動した。

そして筆者が何よりも好きなのは、恋愛ドラマの枠外にいるトリックスター役の山田葵である。山田はファミレス「ワグナリア」の屋根裏部屋に住む家出少女で、仕事はぜんぜんしない。自分中心で、自信過剰で、独善的で、間抜けでさぼるのが大好きな山田は、視聴者である私自身の性格の悪い部分がすべて描写されているようであり、とても親近感を持った。

山田は普通の生活よりもドラマチックな生活を求める。ことあるごとに山田は他の登場人物の恋愛関係をぶち壊し、メロドラマ的な修羅場を作り出そうとするのだが、主人公たちは、山田が何か悪さをしても、メロドラマの登場人物のように激しい反応はしない。「へえそうなの」ととぼけられて、山田は落ち込む。

『WORKING!!』の登場人物たちが生きているのは、20世紀以前のメロドラマの文脈ではない。21世紀的な恋も恋愛もきわめて苦手で面倒で、退屈なものになった社会と同じ文脈に彼ら彼女らは生きている。そのようなアンチ恋愛社会の中で、いかに異性愛を行うのか。その問題と『WORKING!!』は対決しているだろう。

現在3期放送中。最後まで目が離せない。
posted by 野尻有希 at 20:31 | TrackBack(0) | マンガ・アニメ論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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