2015年09月23日

浦沢直樹の漫勉「浅野いにお」「東村アキコ」より印象的な言葉のまとめ



「浦沢直樹の漫勉」は、漫画家の創作現場に密着撮影し、その映像を見ながら浦沢直樹と漫画家が対談する番組。浅野いにお(代表作『ソラニン』『おやすみプンプン』『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』)の回を見て、表現へのこだわりが強くて衝撃を受けた。その後、東村アキコ(代表作『海月姫』『主に泣いてます』『かくかくしかじか』」)の回を再放送で見て、浅野にいおと全然違うやり方で、さらに衝撃を受けた。

【浅野いにお】
浅野:決められた範囲に細かいものをみっちり埋めていく作業は苦じゃない。ずっとやれと言われたら、永遠にできる。できるかぎり細かくしたい。

浅野:写真を処理しただけだとちょっと気持ち悪いから、目立つところだけ、アナログの、わざと雑な感じで汚していく。
浦沢:読者が入ってくる隙を作っている。
浅野:隙は大事。あまりにハイクオリティーなものは、みんな意外に求めていない。
浦沢:あまりにうまい線が達者に入っていると、誰かわからない無記名な感じになってしまう。
浅野:デジタルだと完全にきれいな曲線が書ける。それは数式で表せる線だから、誰でも再現できる。ムラとかエラーをそのまま残している部分が、それぞれの絵の個性になる。

浅野:どういう場所かっていうことがまず最初に決まっていないと、何も想像できない。東京なのか地方なのか。東京に住んでいるキャラが何区に住んでいるかで、人間性が変わっちゃう。

浦沢:浅野さんの最近の絵に水木一郎先生の影響が感じられる。
浅野:リアルな背景に超デフォルメされたキャラクター。あれがたまらない。
浦沢:憧れのあのアナログの絵にデジタルサイドから近づくみたいな。
浅野:生活感とものの質量が感じられる背景。それはやっぱりアナログでないと表現できない。

浅野:いかにキャラにキャラをつけさせないか。キャラの名前も本当は決めたくない。
浦沢:名前をつけるのはすごい嫌な作業。深く考えないというか。
浅野:安直であればあるほどいい。物語に対して、作者がどれほど干渉すべきかという問題になってくる。物語に作者が出過ぎちゃうと、読む人にとってはウザい。

浅野:たまに思いますよ。いっそのこと、普通に描いた方が早いんじゃないかって。
浦沢:でもきっと、これらの作業すべてを遊びのように楽しんでるんだと思う。
浅野:デジタルを使うことで目新しい表現ができたら楽しい。そのための面倒くささはあまりいとわずにやる。

浅野:デジタルツールで何か新しいことをできた時が、面白い瞬間。

浅野:これアリなのかなナシなのかなって読者の反応で試してる時が面白い。
浦沢:あくまで、お客さんをはっとさせるということだから。
浅野:最終的には読者が面白がってくれればそれでいい。

浦沢:コンピューターを使ってしまうと拡大縮小がいくらでもできる。
浅野:デジタル作家の絵がどんどんでかくなっている。すごく引いた画面で顔を書いていると、実際単行本や雑誌になった時ドアップになってしまう。
浦沢:逆に僕は小さい絵を拡大して描いていると思っている。遠くにいる群衆が書き込まれすぎているように見える。
浅野:そういうケースもあるけど、真逆のケースもある。でも、今の時代は電子書籍で見る人もいる。見る人も大きさ自由自在。何が基準かは、もうわかんなくなってきている。

浅野:(密着映像を見た人から)「コピペかよ」って言われるんだろうなって思って。
浦沢:逆だよ。「描いてるのかよ」って言われると思う。浅野さんの作業を見て、決して手を抜くとか楽をするためのコンピューターじゃないってことは、痛いほどわかりました。

浦沢:コンピューターというおもちゃを手にして、これで何ができるかということを実験しているって考えると、楽しそう。
浅野:なるべく人に教えられたくない。教えられてしまうと、楽しくない。
浦沢:ジミー・ヘンドリックスみたいに、ギター手にとって、いきなり歯で弾くみたいな。
浅野:この道具をこういう風に使ってねって言われると、そういう風に使いたくない。それを言ったら台無しなんだよって。発見みたいなものがあるから、次の絵を描いてみようってなれる。

【東村アキコ】
浅野いにおは、細部にこだわり、時間のかかる緻密な作業をやり遂げ、デジタル技術を多用していた。翌日、再放送で見た東村アキコは、浅野いにおと全然違うタイプだった。

東村アキコは、連載5本を同時に抱える売れっ子作家。漫画界屈指と言われる執筆スピードを持ち、すらすら絵を描いていく。仕事場にはアシスタントが10人以上いる。東村は人物を描く。背景はアシスタントに任せるし、背景のないコマも多い。

東村:昔の漫画は背景白が多かった。今の漫画家は、背景書き込み過ぎだと思う。ある場面に来たら、最初のシーンだけ背景を描く。後は背景がなくても、読者が想像してくれる。

東村:デジタルは使わない。アナログでやった方が、アシスタントの子が、自分にない表現をもたらしてくれる。

東村:若い子がいっぱい来てくれると、画面が今っぽくなる。古くなるのが一番嫌。下手でもいいから新鮮味がないと嫌。

東村はネームを描くのも早い。あまり悩まず物語の構成ができていく。

東村:うんうん悩んだりとかはない。頭の中にあることを、ただイタコのように紙におろしていっているだけ。考えている感じがあまりない。キャラが紙の上で喋っていくのを、ただ描いているという感じで、「ああしよう、こうしよう」とかも全然思っていない。

ネームでつまったら机の上で寝る。寝ている間にアイデアができている。

浦沢:ネームの段階で結構絵描いているね。
東村:人物の顔を十字で描いたりしない。毎回ちゃんと描く。絵を描くのは楽しいから。ネームを描いている時は、仕事をやっている感じがしない。

東村が、早く描けるのは、基礎となるデッサン力があるから。学生時代の恩師にみっちり鍛えられた。その様子は、自叙伝的漫画『かくかくしかじか』に描かれている。

東村:何もやってないけど、すらすら描けちゃうんですって気取っていたい気持ちもあった。ただ、あの時代があったからこそ、今の自分があるんだと言いたい気持ちになり、『かくかくしかじか』を描いた。
浦沢:あの先生はすごいね。
東村:今までの人生でたくさんの人に会って来たけど、あの先生が一番すごかった。あんな人は他にいなかった。

東村は、現在、上杉謙信が女だったらという仮想歴史漫画『雪花の虎』を描いている。

東村:謙信の城があった新潟に取材に行った。そこである程度、謙信がどんな人かつかめた。人の部屋に入ると、その人がわかる。それと似た感じ。
浦沢:何でもつかむのが早いんだね。
東村:人の家に遊びに行くと、その家のホッチキスが、部屋の中のどこにしまってあるか、すぐにわかるような子だった(笑)。
浦沢:直感が研ぎ澄まされている。何でも早いんだ。

東村:漫画を描くのは、ビジョンの実現。

密着取材中、重要シーンの人物の目を描く場面のみ、何度もやり直していた。目の下に涙袋を描いて、絵が完成した。

浦沢:涙袋ラインが表情作るよね。
東村:すごく大事。漫画は目の下ライン、0.1ミリで、人物の顔がすごく変わる。

浦沢:東村さんは、現代では珍しい達人。ばっと描いていく。
東村:達人を目指している。シュってやるだけで、ウワッって絵ができるみたいな世界に行きたい。手抜きというよりも、そうなった方が、漫画がよくなる気がする。

(所感)
浅野いにおは35歳、東村アキコは39歳。一方は緻密にデジタルを使いこなす新世代を代表する作家であり、もう一方は基礎がしっかりできた漫画界の達人。彼と彼女は漫画という仕事を苦しみつつ楽しんでいる。

二人の作品の多くはキンドルで読める。書店に行って本を探すのが面倒だし、部屋の本棚に漫画が増えるのも億劫なので、キンドル版を買うことに決めた。

photo
かくかくしかじか 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
東村アキコ
集英社 2012-07-25

かくかくしかじか 2 (マーガレットコミックスDIGITAL) かくかくしかじか 3 (マーガレットコミックスDIGITAL) かくかくしかじか 4 (マーガレットコミックスDIGITAL) かくかくしかじか 5 (マーガレットコミックスDIGITAL) ママはテンパリスト 1 (クイーンズコミックスDIGITAL)

by G-Tools , 2015/09/23


posted by 野尻有希 at 13:29 | TrackBack(0) | 創作技術論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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