2016年08月30日

庵野秀明脚本・編集・総監督『シン・ゴジラ』MX4D上映感想2〜初期衝動、政治、二次創作臭、名言集、腐海の匂い

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ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ
カラー、東宝
グラウンドワークス 2016-09-20

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by G-Tools , 2016/08/30



庵野監督の実写映画ときいて、正直全く期待していなかった。過去の『ラブ&ポップ』も『キューティーハニー』も、エヴァやナディアに比べれば、なんか無理してる感があった。『シン・ゴジラ』は違った。エヴァやナディアの第1話を見た時と同じ興奮があった。『アオイホノオ』で描かれたガイナックス初期と同じ熱を感じた。何故か。「ゴジラが好き」という初期衝動が、作中に溢れかえっていたからだと思う。

庵野秀明は脚本・編集・総監督という立場であり、監督は実写映画の実績がある樋口真嗣氏だったのも、成功の要因だったかもしれない。ただ樋口監督も『進撃の巨人』実写版の評判はよくなかった。『シン・ゴジラ』が特にクリエイター受けがいい原因は、製作陣が全盛時のガイナックスみたく初期衝動の熱気満々だったからと推測する。エヴァテレビ版の後半みたく、クリエイターが自意識の迷路に迷っていない。作りたいものを作っている。ハリウッドのゴジラはなんか違うと思った特撮愛に溢れたクリエイターたちが、エンタメの王道を更新した。(ここからネタバレあります。注意)

『シン・ゴジラ』は、政治的な映画という意見も多い。といっても、特定の党派の主義主張を宣伝するプロパガンダ映画ではない。本作における政権与党は、自民党っぽいけれど、自民党とも民主党とも解釈できる。政府の若いエリートが、日本の危機的状況に立ち上がり、危機を克服するという内容は、現政権肯定的という批判があったし、長谷川博己演じる主役の矢口蘭堂を、原発事故後の細野豪志議員に見立てる解釈もあった。作品の解釈は多様でよい。『シン・ゴジラ』は、現在の国際社会における日本という国家のポジションを示していた。日米関係において日本はどのような立場にあるのか、今後どのように主張していけばいいのか、『シン・ゴジラ』はある一つの未来予想図を示していた。

僕は、ゴジラは事故後の原発だと思えた。初代ゴジラは、原爆実験の事故を着想のもとにしている。『シン・ゴジラ』は初代の変奏である。福島の原発事故について一言も直接言及していないので、電力会社からも文句は出ないだろう。けれど、ゴジラ上陸によって川のボートが押し流されるシーン、東京の街並みが破壊される様子、破壊された後の瓦礫の様子、ゴジラが放つ放射性物質のベクレルが計測される様子、ゴジラ討伐強力のために米軍が動く様子、ゴジラの対応が進まない日本政府に対して国際社会がいろいろ注文をつけてくる様子、どれも原発事故後の日本を想起させた。

主人公の矢口は、上司の忠告を聞かず、自分の好きなように発言し、行動する。相手に気を遣わずに自分の意見を正直にいう者は、平和で安定的な社会では空気の読めない変人だが、危機的状況では、危機を打開する有益な人物になる。ゴジラを倒すために全力を尽くす矢口の行動に共感する者が増えていき、矢口は新しいリーダーになる。

組織の論理にとらわれず、好きなものを貫き通せ。これは『シン・ゴジラ』が観客に示す価値観である。何も新しい価値観ではない。『ラブライブ!』と同じだ。自己啓発書と同じだ。成功する人は一握りである。成功できず貧困にあえぐ人が大勢いる。リアルは厳しい。それでも『シン・ゴジラ』の「好きなものを貫き通せ」いう価値観には説得力があった。作品そのものが、製作陣が好きなもののオンパレードに見えた。だからといって、ひとりよがりの絶頂ではなかった。好きなものを貫き通すには、地道な調整や説得も必要だ。矢口と彼のチームが、やりたいことをやるために奮闘する様子を見て、観客は熱をもらえたのだった。

本作のセリフは早口の専門用語が大きく、地上波のドラマではダメ出しされるだろうと思えた。ふつうは、もっとわかりやすい言葉にしようとする。専門用語のオンパレードだからこそ興奮できた。官公庁の役人が首相に行うレクチャーを「総理レク(チャ―)」と表記したテロップがあった。市川崑、岡本喜八の映画調の明朝体のテロップで「総理レク(チャ―)」と出た時、観客はくすくす笑った。過酷な状況をガチで描いているけれど、パロディーをしている感がある。『ゴジラ』の壮大な二次創作のように感じられたのも、ヒットの要因だろう。昨今の漫画、アニメ原作実写映画は、原作ファンからバッシングされることが多かったが、『シン・ゴジラ』は特撮・漫画・アニメファンが喜ぶ仕掛けに溢れていた。

<おまけその1>
『シン・ゴジラ』から名言集をお届け。

尾頭(市川実日子)「ゴジラよりこわいのは私達人間ね」(『ゴジラ対ビオランテ』からの引用)

赤坂(竹野内豊)「ニューヨークであっても同じことをするそうだ」(アメリカの攻撃案にいらつく日本人に対して。こちらは『ゴジラ』(’84)からの引用)

財前(國村隼)「礼はいりません。仕事ですから」(エヴァンゲリオンからの引用)

大河内(大杉漣)「え? 動くの?」(ゴジラが動くと知って総理大臣のの言葉)

矢口「先の大戦では、旧日本軍の希望的観測、こうあってほしいという願望により、国民に三百万人もの犠牲者が出ました。油断は禁物です」

カヨ子・アン・パタースン(石原さとみ)「日本は愛されている。協力したいという米兵の志願者が殺到している」

安田(高橋一生)「そりゃ選択肢としてはありだけど、選ぶなよぉ」(国際社会の強硬策を聞いて)

泉(松尾諭)「まず君が落ち着け」(激昂する矢口にペットボトルを差し出しつつ)

泉「自国の利益のために他国を犠牲にするのは覇道です」

たしか矢口のセリフ「我が国は人徳による王道をゆくべき」

里見(平泉成)「避難とは、住民に生活を根こそぎ捨てさせることだ。簡単に言わないでほしいなぁ」

牧博士(岡本喜八)の遺言「私は好きにした。君らも好きにしろ」

赤坂「そろそろ好きになさったらどうですか?」(アメリカ政府の要求に戸惑う首相代理に向けて)

矢口「無人在来線爆弾、全車両投入!」(本気で真面目に言う。この後ゴジラに在来線爆弾が突入)

<おまけ2 ラストについての考察>
ゴジラは、自己繁殖しつつ、高速で進化していく地上最強の生物である。物語の最後、国際社会はゴジラを核攻撃する案を決定する。矢口達はゴジラを凍結する代替案を出し、無人在来線爆弾で足止めしつつ、ゴジラの凍結に成功する。品川駅前で立ったまま凍ったゴジラをどうするか考える必要がある、というところで物語が終わる。凍ったゴジラは、氷の壁で覆う作戦実行中の福島第一原発に見えた。原発事故の後、どうすべきか考えている渦中にある日本が、映画の中の日本に重なった。

<おまけ3 シン・ゴジラと宮崎駿イズムの関係>
物語の最後の方で、ゴジラは放射能を吸収する能力を持っていたとがわかる。宮崎駿監督『風の谷のナウシカ』の腐海も、毒素をばらまく森林だが、深層までおりていくと、毒素を浄化する性質を持っていた。つまり、ゴジラは腐海のアナロジーだろう。地球を破壊するかに見える新・深・神ゴジラは、地球を救う神にも変わり得る。人間はゴジラの力を恐れた。しかし、ゴジラは人の過ちを救う可能性を持っていた、かもしれない。

以上、尾頭さんに魅了されて書いた文章でした。
posted by 野尻有希 at 22:20 | TrackBack(0) | 映画論(国内) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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