2017年01月03日

NHK教育「ニッポンのジレンマ元旦SP 恒例!12人の異才たちが徹底討論」個人的な議事メモ

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適切な世界の適切ならざる私
文月 悠光
思潮社 2009-10

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by G-Tools , 2017/01/03



NHK教育で2017年1月1日夜「ニッポンのジレンマ元旦SP 恒例!12人の異才たちが徹底討論 」が放送された。以下議論全体の中から、個人的に注目した部分の議事メモ。

出演者:古市憲寿(司会)、大澤聡(批評家)、安田洋祐(経済学者)、三牧聖子(国際政治学者)、石山洸(AI研究者)、丸山善宏(数理哲学者)、ライラ・カセム(デザイナー)。安部敏樹(社会問題旅行社代表)、佐藤信(政治学者)、堀口美奈(総合商社勤務)、文月悠光(詩人)、福原志保(アーティスト)

【Post-Truth】
客観的事実よりも感情的な訴えかけの方が世論形成に大きな影響を示している。それぞれの立場の真実が飛び交い、社会が分断。
ライラ:イギリスの場合、新聞が語る言葉は、貧困層の現実とかみ合わない。貧困層は、タブロイド紙やSNSの劇的な言葉に注目する。

大澤:みんな多文化主義に疲れている。マジョリティーがアイデンティティーを主張すると、強い立場にいるのに何主張しているんだと叩かれる。すると、承認が欠落する。どこでマジョリティーが承認を補充すればいいのか。(マジョリティーの承認装置としての)理念や理想は、20世紀のある時期だけ機能した。今後、理念を再構成できるかが問われている。

【日本の未来は明るいか?】
安部:社会問題はこれまで隠さなければいけないものだった。課題があるから悲観的になる必要はない。
佐藤:課題があるから明るいというのは、完全なオプティミズム。どんな社会も絶対明るくなる。
大澤:経済学者も政治学者もトランプ当選前は悲観的だった。トランプ当選後、起こっていることは正しいという論理でいかないと負けてしまうので、ポジションを楽観的立場に変えた。今の現状をデフォルトにして、ここから変えていこうという意見は、前の議論なんだったのとなる。

【格差・分断】
安部:強い者、賢い者は声が大きい。言葉を出せない人の声を救いあげて来なかったエリートの責任がある。飲んエリートの考え方はわからないとエリート層がいうと、また貧困層の意見を黙殺することになる。
安田:多くの人が考えている投票行動とファクトとしての投票行動は違っており、見えていなかった可能性がある。
安部:格差問題を解消するため、貧困という課題の現場に人が旅行で行く仕組みを作っている。
古市:それはすごいエリート主義的。エリートにも貧困の子ども達と会う機会を与えるという論理は、強者側すぎてついて行けない部分がある。
丸山:日本はホームレスに話しかける人が少ない。イギリスは、ホームレスに声をかける習慣がある。日本にはノブリス・オブリージュ(高貴なる者が義務を負う)の考え方が欠落している。
古市:イギリスは階級がはっきりしているから、エリートが貧困層に働きかけるのではないか。
安部:社会問題は当事者だけだと解決できないから社会問題になる。
ライラ:お節介する人と当事者は同じ立場にならなければいけない。
大澤:教育で他者理解を深めようといって、どこまで変われるのか。
古市:近代民主主義最大の発見は、多くの人が政治に関心ないこと。日々の生活の方が大事という人の方が多い。
大澤:他者への配慮にどうやってインセンティブをつけるのか。
堀口:他者への配慮は勉強すべきものじゃない。人生経験で培うもの。
ライラ:日本は先進国で寄付額が最下位だが、クラウドファウンディングは増えている。それは、相手が見えているから。日本の文化にあった優しさの注入の仕方がある。
スタジオ観覧者:自分自身の話がエリートの議論と思うこと自体が分断を作っていると思う。一人一人が自分の思っていることを言いたいようにきちんと話す、マジレスをする方が、見ている側も納得できると思う。

【再魔術化】
丸山:近代は、脱魔術化。合理主義を進めた。現代は、「再魔術化」が進んでいるという説がある。情動的なもの、激しい感情の復権。労働においても感情労働が言われるようになっている。Post-Truthも政治領域における再魔術化と捉えることができる。

【戦争の可能性】
佐藤:分断が進むとナショナリズムが過度になって戦争が起きる可能性がある。誰が敵か味方ということすら明らかではない。
大澤:今後戦争はどうなっていくのか、まだ言葉がない。後代の歴史家が評価するもの。
堀口:ミレニアル世代は、自分のことしか関心がない。自分の国のことしか関心がない。戦争したいとも思っていない。この世代がボリュームゾーンになって、国の政策にリアルに影響してくると思う。
丸山:「どうなっていくんですか?」と知識人に聞く態度はもう古い。未来は自分達が作っていくもの。「自分達はどうしていきたいのか?」と一人一人が考える。
古市:アメリカと中国の戦争は有り得るか?
佐藤:ストラクチュアル・リアリストと呼ばれている人達は、アメリカと中国が戦争になる可能性を想定している。今までは緩衝地帯があった。しかし、緩衝地帯から米軍の基地を撤退させたら、直接対決があり得る。
古市:日本と中国が戦争する可能性はある?
佐藤:リアリティーはない。思考停止に近い。
古市:戦争は想定することがリスクになり得る。再起性(予測し戦略を立てることで相手が変化し、変化の循環から逃れられなくなる)が働く。可能性を想定しないことで平和が保たれることもある。日本が核配備を国会で議論することで、中国を刺激する。
安田:情報収集することと、情報収集していることを相手に知らせることは違う。

【アート】
古市:トランプの汚い言葉は詩人からしてどう?
文月:乱暴な言葉遣いは表現ならいい。思考停止に陥ったことに対して、たくさんの人が口を閉ざす。リアリティーがないと思われていることに対して、リアリティーを与えて肉付けさせるのが、表現やフィクションの力。何かの予見、何故この分断が生まれているのだろうと自分に向き合わせてくれるのが表現。トランプの言葉は、自分と関係ないものを切る方向に進んでいる。同じ言葉を動かす言葉でも目的が違う。過剰に目的化している。トランプが選ばれたことに対して激情的に喜ぶ、反対することがひいてみると、トランプと同じに見えてしまう。過剰に表明できないまま、「これから世界はどうなるんだろう」とぼんやりとした不安を呑み込んで生きている人がいる。そういう人達が自分の不安を言語化したり、作品として発表するのにはまだ時間がかかる。
大澤:表現は時間がかかるもの。理性を働かせるためには時間が必要。現代社会は即時反射できるメディアを生んだ。インパクトのある言葉、動物的な本能に訴える言葉が並んだ。そうじゃない言葉は本当はある。なくなったわけじゃない。
安部:アートや研究は長い時間軸で全体最適を考えること。ネットのコミュニケーションは短い時間軸の部分最適。
福原:言葉にならない違和感を言葉化していく詩もあるし、言葉以外で表現するアートもある。新しい技術には人は希望と懸念(Hope&Fear)を持つ。新しいものに対して、自分の気持ちはどっちにあるか出していける場を提供するのがアート。

【人工知能】
石山:シンギュラリティーは来ないが、マルチラリティーは来る。人間の価値は相対的。人工知能の能力が人間を超えるという時、どのような能力か定義できていない。特異点は複数ある。人工知能の本当の専門家は、シンギュラリティー的世界よりマルチラリティー的世界を唱えている。(石山)
大澤:宮崎駿は技術を怖がる。
石山:ピクサーの場合、ディズニーの「ファニー、ラブ、ファンタジー」は何も変わっていないとプレゼンする。
大澤:軍事利用されない保証はどこにあるのか?
石山:人工知能以外の技術も軍事利用されてきた。科学者は軍事利用される技術を作りたいわけではない。技術の問題ではなくて、人間サイドの問題。
大澤:コクーン化、エコチェンバー化が進んでいる。技術が発達すると人間は快楽を求める。ノイズの入らない空間を作る。他者を排除した世界で、他者に対して寛容になれるのか。
安部:人間が暇になったら考える時間ができるのではないか。
古市:人工知能の方が説得力あるとなると、人間の終わりになる。
福原:AIは知能ではなく機能。そのものだけでは何もできない、データを入れなきゃいけない。AIは人間を超えると言われているけど、そもそも私達は人間をわかっていない。人間をわかっていないのに超えると言っていること自体が、何を超えるのかわかっていない。
石山:人工知能の研究者だけに人工知能作らせちゃだめ。いろんな人が関わらないと。
ライラ:科学者が面白い人を集めればいいだけの話。
石山:人工知能が大学の入試問題を解く。数学の点数は高かったけど、国語の点数は高くなかった。しかし、人間の国語の平均点はもっと低かった。そもそも人間は言語的に内容を理解していないのではないか。トランプは、リテラシーが低い人にもわかりやすい話をしたから票が集まったのではないかと言える。人工知能を軍事利用する人がいる。人工知能には文学の人が関わってほしい。剣にはペンが対峙する。
大澤:文学はこの土壌に乗ってはいけない。負ける。
ライラ:勝ちか負けかの問題じゃないと思う。
福原:バイオ技術の発表会にいった。害虫を駆除するために、子孫を作らないようにするバイオ技術の発表があった。その技術は人間にも応用できる。兵器になり得る技術を作っている意識はあるか質問した。科学者は危険があるからこそ作る必要があると回答された。できるとわかっているのに自分達が作らなければ、他の誰かが作った時に対応できなくなる。自分達が作ってコントロール。技術を学ぶ。AIはバイオに比べたら制御しやすい。バイオは一旦拡散したら制御できない。
安田:AIは汎用。テロリストがAIを使うこともできる。一人の悪人で世界が滅びる。一人の悪人の行為を止めることができるのか? 
石山:悪人が出てきたら対処できるようにしなければならない。
大澤:対処すべきかどうかではなくて、対処できるかどうかを質問している。
安田:こういう形でAI技術を進めるとか、こういう形で法や倫理の制度を整えていけば、解決できると言ってもらえれば安心できるけれど、解決しなきゃいけないじゃんと言われると、そこ何も考えていないんですかと気になっちゃう。準備ができていないのだとしたら、法律の制度設計、経済の制度設計をどうするか専門家に聞いてほしい。
堀口:グーグルの「Don't be evil.」という言葉がすごい好き。ITにかかわっている人達の方が高い倫理観を持っているのではないか。
古市:DNAのニュースを見ていると、そうでもない。
大澤:専門家時代の幻想。専門家はちゃんとやっていてくれるという幻想。
古市:最先端にいる人の倫理観に賭けるしかないのか。

【異質でも分断しない技術】
ライラ:障害者や社会的弱者は良いデザインパートナーになる。デザインの失敗とは何かよくわかっているから。
丸山:AとBの対立を経て、Cを目指すのはヘーゲルの弁証法。AとBの対立をずらすのが、デリダの脱構築。京都学派は、対立、矛盾を維持したまま、一つになるという。西田幾多郎は、絶対矛盾的自己同一という。AとBを一体化して同じもの。色即是空、空即是色。AとBの間にトレーディングゾーン(交易圏)を確保する。その領域の中では、インターランゲージ(中間言語)といって、AでもBでもない言葉で語る。つながっていればいいというものではない。コアな部分では自律性を保っているが、インターフェースではつながっている。
大澤:日中戦争の後期に日本はこれをリアルポリティクスに導入した。その時、大東亜共栄圏に行っちゃった。
丸山:大東亜共栄圏は中心があるネットワークだった。支配、被支配関係だとうまくいかない。
大澤:脱中心的にネットワークを作っていけば、京都学派の哲学も応用可能である。

(所感)
2016年初めの議論と比較して、人工知能の発達が進み、アメリカが変化した世界での議論だった。安倍政権についての話題が全くといっていいほど出ないのは(政権批判的な知識人が出演しないのは)、メディア統制が進んだ影響だろうか。

専門家の信頼は落ちている。専門家が特権的地位の保持にこだわると、バッシングされる。専門家がポジション、ロールを離れて、自分の現在の本音でアイデンティティーを主張すれば、言葉は届く。
posted by 野尻有希 at 17:19 | TrackBack(0) | TV論(ドキュメンタリー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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