2007年11月19日

連載小説セカンドデス(6)悪魔のソース解放

(当作品はフィクションであり、インターネット上に実在する仮想世界セカンドライフとは一切関係ありません。)

派手な市街戦の他に、陰湿な性犯罪を楽しむ者もいた。歌舞伎町の風俗店で遊ぼうと思えば、何も犯罪的行為をせずとも遊べるのに、一部のユーザーは百貨店で買い物している女性客をトイレに引き込み、その場で暴行を楽しんだ。警察によって包囲され逮捕されても、何度も犯行を繰り返すことができる。この自由をユーザーはむさぼり尽くした。

一部の利用者の間から、セカンドデスを批判する声が高まり、日本のネット中で話題になった。ヒロミはセカンドデスの公式サイトで、批判に対する回答を示した。

「セカンドデスは現実世界を完全に再現する仮想世界の構築を目指しています。私たち運営者側は暴力行為を止める意欲を持ちません。なぜなら、人間の暴力を抑止できるのは、人間でしかないからです。私たちはユーザーに武器を提供しているだけです。武器をどう使うかはユーザーの自由です。暴行を犯したユーザーが逮捕された後、なぜ逮捕前の時間に引き戻されるのか。それはセカンドデスの世界内がいまだ新宿駅周辺しか再現できず、拘留所も刑務所も準備できていないためです。私たちはセカンドデスの開発ソースを公開します。刑務所や裁判所を作りたいなら皆さんのやりたいように設計し、開発して下さい。開発の際守っていただきたいルールが二つだけあります。第一に開発者側がシステム内に仕組んだ設定によってユーザーの行動自由を制限しないこと。第二に、ユーザーの行動を制限したいのであれば、行動を制限するための社会制度か自然環境をセカンドデス内に作り上げること。この二つだけです。神の存在を想像すれば理解できるでしょう。神は人間の命と行動を制限しません。人間の行動が制限されるとすれば、それは自然現象の連なりか、人間が自分たちで定めた制度によって、極めて合理的に制限されるだけです。魔法や神秘のごときプログラムによって人間活動を制限するのは、実にみっともない開発です」

この宣言の後、セカンドデスを作り上げているプログラムのソースが解放された。セカンドデスのモラルのなさを気にしていた良心派のプログラマー達は、自分たちの仕事をなげうってまで、司法、警察制度の構築をしていった。一方、犯罪行為を繰り返したい人々は、国家の機能を破壊できるほどの破壊兵器の開発を始めた。
posted by 野尻有希 at 23:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小説「対セカンドライフ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月08日

連載小説セカンドデス(5)完全なる新宿の再現

(当作品はフィクションであり、インターネット上に実在する仮想世界セカンドライフとは一切関係ありません。)

ヒロミはセカンドデスの開発メンバーとしてインターネットで知り合った八人のプログラマーとCGデザイナーを雇った。ヒロミを含めた九人でプルバキという名の株式会社が立ち上げられた。ブルバキの社員は自宅のパソコン前で私服で仕事をし、必要のある時のみヒロミのマンションに集まった。

ごく初期のセカンドデスは、東京都内の主要ターミナルの一つである新宿駅周辺をネット上で細部にいたるまで完全に再現していた。ビル群はトイレの備品、商品の値札にいたるまで完全に再現された。著作権なり肖像権の問題が持ち上がったが、ロゴマークの一部なり名称の一部を変えるだけで、建物や商品の外観はそのままトレースされた。

通例、仮想空間内に存在している人間のキャラクターは、実在するユーザーが操作することになっている。しかし、セカンドデスではプログラムによって自動で動いている人間のキャラクターがたくさんいた。ユーザーよりも多い大量の人間キャラクターは、実在の新宿を再現するためにプログラミングされていた。フィールド自体は新宿駅周辺までしかなかったが、電車から新宿に降り立った人々は、新宿の外でどのように生活しているかまでこと細かく設定されていた。朝電車に乗って通勤してきたショップ店員キャラは、歩いて自分の店に向かい、鞄から鍵を取り出し、シャッターを開ける。電気をつけると、前日のレジ金額を確かめ、空気清浄機にスイッチを入れ、有線放送をかけて、今日の売り上げ目標を確認するところまでプログラミングで規定されていた。

買い物に訪れる女性客は、何月何年生まれで、どこに住んでいて、家族構成はどうなっていて、趣味、嗜好はどうなっていて、セックス経験はどのくらいで、といった詳細が一人一人に設定されていた。莫大な手間がかかる作業のように感じられるが、ある一定のルールと適用範囲を定めた後は、変数の値をランダムに割り振って、生活パターンが類似しているようでいて微妙に細部が異なるキャラクターが量産されていった。

専用ソフトを用意し、ユーザー登録を済ませたユーザーは、電車に乗って新宿駅に降り立つ。どこの鉄道会社の、どの路線を使用するかは、ランダムに決定されていたが、そのうちユーザー自身で選べるようになっていた。

多くの人型キャラクターとともに新宿駅に降り立ったユーザーには、初期設定として一つ武器が用意されている。ナイフ、金属バット、ケミカルメス、拳銃、ショットガン、サブマシンガン、アサルトライフル、手榴弾、地雷、火縄銃、大砲、斧、剣、ボウガンなど、分類ごとに数十種類ある選択肢の中からユーザーは好みの武器を選んで新宿駅に降り立つ。通行人に武力を行使することは、ユーザーの自由である。

ナイフで切りつけられた若い女性は悲鳴をあげて、その場に倒れこむ。周りに人だかりができるし、その場でじっとしていれば警官もやってくる。街頭でサブマシンガンを打ちまくるなど派手なアクションを演じると、すぐにパトカーが駆けつけ、警官がユーザーを逮捕しようとしてくる。

逮捕されれば、その場でセカンドデスは一時的に終了する。強制的に逮捕前の状況まで時間が戻り、行動の再選択を促されることになる。精密に世界が作りこんであるのだから、楽しみ方はいくらでもあるのに、ユーザーはたいてい強姦を含めた暴力をおかし、警察の手から逃げ回る遊びを楽しみ始めた。チームを組んで路上で銃撃戦を楽しむ者もいた。相手チームを狙って発砲されるたび、通行中の住民が被弾して道端にうずくまった。パトカーが駆けつけると、バズーカ砲によって車ごと吹き飛ばされもした。機動隊が出動して強制逮捕されても、逮捕前の状態に時間が戻るため、セカンドデスはたちまち暴力好きの人間達の憩いの場所となった。
posted by 野尻有希 at 23:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小説「対セカンドライフ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月03日

連載小説『セカンドデス』(4)

(当作品はフィクションであり、インターネット上に実在する仮想世界セカンドライフとは一切関係ありません。)

ニュースサイトのサーバーがダウンした頃、別の取材でヒロミはこう答えている。

「セカンドデスの名前の由来についての私の回答に対して、一つのサイトが閉鎖に追い込まれるほどの紛糾を呼んだことは反省しています。事のところ、私はセカンドデスという言葉が何を意味しているのかについて、正確に答えていたのです。その回答が報道の倫理規制に抵触する恐れがあったため、編集者側は私の言葉とはまるで違う、おざなりの回答を用意してきました。私は自分の言葉ではないものが私の発言としてネットにアップされるのを拒否しました。最終的には、回答部分が削除されて、掲載しても当たり障り内と判断された、回答の後半部分のみがアップされていたのです。それがあの騒動の裏にあった事実です。と言っても、セカンドデスのヘビーユーザーたちにはご不満でしょうから、言葉の真意について、当たり障りのない表現で説明しましょう。生の次には必ず死が訪れる。これは真実です。死の後には何も起こりません。例外的に起こりうる蘇生を除いて、これもまた真実です。そうは言っても、セカンドデスでは多くのゲームと同じように、ユーザーは殺された後、殺される前の状態に戻ってゲームを再開することができます。死んでも死んでもやり直しがきくテレビゲームにおける暗黙のルールは、生命現象とは異なり、若者の教育によくないと識者がよく批判しています。私はそう思いません。ユーザーはセカンドデスの世界で何度も死を体験できます。また、現実世界で殺戮の権利は警察と軍隊によって握られていますが、セカンドデスのユーザーは生命に死を与えるという本来なら全ての動物が持っているべき権利を行使できます。死を経験すること、死を与えること。私たちは死に関する豊かな体験を取り戻す必要があります。何故生命が貧困化したのか。多くの人が攻撃力と繁殖力を喪失し、白昼夢のうちに生きるだけの存在に成り下がったのか。死ぬ権利、死を与える権利がなければ、人は生をも滅ぼしてしまいます。セカンドデスは現代世界で忘れられた死の恐怖をユーザーに提供するでしょう」

この文章はネット上に現れた後、すぐに掲載箇所から削除されたが、掲載時点に文章をコピーしていたヒロミのファンたちによっていたるところで再掲載された。が、その度に文章は削除されていった。
posted by 野尻有希 at 23:40 | Comment(0) | TrackBack(1) | 小説「対セカンドライフ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月01日

連載小説『セカンドデス』(3)セカンドデスの思想的背景

(当小説はフィクションであり、インターネット上に実在する仮想世界、セカンドライフとは一切関係がありません。)

photo
セカンドライフの作り方 (バーチャルワールドガイドブックシリーズ)
西 真由/ 宮本 朱美
アスキー 2007-07-19
おすすめ平均 star
star満足
starとても便利な一冊
starモノづくりのリファレンス本として重宝
starモノづくりのお供にオススメ
star最新版に対応していないのが残念

セカンドライフで作る リンデンスクリプト入門(CDROM付) (セカンドライフアーキテクト育成SCRIPTING series 1) セカンドライフ Linden Scripting Language プログラミング入門 (バーチャルワールドガイドブックシリーズ) (バーチャルワールドガイドブックシリーズ) セカンドライフの歩き方 (アスキームック) セカンドライフ公式ガイド Second life the official guide セカンドライフの儲け方 (セカンドライフ簡単登録講座CD-R付)

by G-Tools , 2007/11/02



外国人である他人が作り出した仮想空間内で自分の世界を作り上げることは、制約が多いことを宏美は学んだ。プログラムで自由に世界を作り上げることができるといっても、世界の中での共通ルールは運営会社が定めているし、何よりその仮想世界の共通言語は英語である。宏美は自分自身の手と思考で完全にコントロールできる、外部からルールを課されない仮想世界を作ることにした。

宏美が十七歳となった時、両親は離婚した。性のスキャンダルにまみれ政界での地位を喪失した岩国貫二は山形に帰り、地盤固めから再開することにした。慰謝料を手にした母は付き合っていたテレビマンの上司にあたるプロデューサーと再婚することにした。母から慰謝料を分けてもらった宏美は、港区のマンションに一人残った。宏美は中学二年生の夏から学校に通わなくなったが、エスカレーター式に高校2年生まで進級していた。彼女は一日中数ヶ国語の百科全書が並ぶ父の書斎でパソコンを操作し続けた。

彼女は、海外のサイトではhiromiと名乗っていたが、日本のサイトではヒロミというカタカナのニックネームを使用していた。日本の厳しい法規制を逃れるため海外のサーバーに自社ドメインを確保したヒロミは、規制から開放されたい人のための、仮想世界構築作業を始めた。

ヒロミは自身の仮想世界をセカンドデスと命名した。サーバーのアドレス登録もセカンドデスで済ませた。

後日、ネット上のニュースメディアの取材でセカンドデスという名前の由来を尋ねられたヒロミは、こう答えている。
「生きることの次には、死が必ずやってくる。生命の本質は攻撃と繁殖です。古臭い社会進化論だととられるかもしれませんが、今の日本には攻撃力も繁殖力もない。攻撃力を開放する場所をなくした人の怒りは犯罪的暴力という形をとるし、若者たちのセックスと、セックスを表現するマスメディアの姿勢は完全に快楽専攻で、性に伴う繁殖という本題が忘れ去られています。攻撃と繁殖を暴力と快楽という代替物に退化させた生物はどうなるか。種あるいは類の絶滅です。攻撃力がなければ、外部からの攻撃に対抗できなくなりますし、繁殖力がなければ子孫を残すことができない。こうした弱い生命は必然的に外部からの侵入者によって滅ぼされます。生命体としての虐殺でなくともよい、文化的、経済的自立を切り崩され、侵入者側の価値観を強制されることになるかもしれません。すなわち、攻撃も繁殖もできない生命は、それらの能力に長ける種族に支配されるのです。生命と死は対になっています。繁殖と攻撃、愛と憎しみ、性欲と暴力、どう言い換えてもいい。ただ、言葉の表現方法に注意する必要があります。類似している現象でも、表現方法を変えれば、言葉の表現に従って現象そのものまで様変わりしてしまう場合が多々あります。言葉の力で現実を変えることもできるのです。故に私は暴力という言葉も、快楽という言葉も嫌いです。攻撃と繁殖の方が、生命活動の理由として明確に理解できるじゃありませんか」

この記事に対して、インタビュアーの質問に答えていないという批判コメントが多数よせられた。ヒロミは日本の政治家たちと同じくYES、NOで明確に答えることができない奴だ、有害な思想の持ち主だという批判とともに、ヒロミの言葉を支持するコメントも多数よせられた。そのうち賛成派と反対派で中傷合戦が起こり、記事を載せていたサイトは「炎上」した。
posted by 野尻有希 at 23:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小説「対セカンドライフ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月28日

連載小説『セカンドデス』(2)セカンドデスの開発者

セカンドデスは、インターネット上によくある3D仮想空間の一種である。セカンドデスの中に入るためには、専用ソフトとユーザー登録が必要となる。どちらもセカンドデスの公式サイト内に無料で提供されている。

自身のパーソナルコンピューターにインストールしたセカンドデスを起動すると、真っ黒なログイン画面が立ち上がる。

ユーザー自身が作成したログイン用の氏名とパスワードを入力すると、ユーザーは無事セカンドデスにログインすることができる。

ネット上の3D仮想空間はアメリカを中心に数多く開発されている。他の仮想空間とセカンドデスとの最大の違いは、倫理性の程度である。

セカンドデスではユーザーが、たいていの仮想空間では自主的に制限されている犯罪的暴力を自由に振るうことができる。パンチ、キック、刃物による殺傷、銃火器の発砲、脅迫、強盗、強姦、誘拐、虐待、監禁、拷問などユーザーはあらゆる動作を選択可能である。日本国内外でセカンドデスが利用を伸ばした理由として、暴力に対する過度の寛容性を指摘できる。

セカンドデスの開発者、岩国宏美は日本の北西部に位置する山形県で生まれた。彼女の父親岩国貫二は自由民主党の総裁選に三回出馬し、いずれも僅差で敗れていた。宏美は中学校入学時から東京都内の私立校に転入し、港区のマンションで母親と生活を始めた。父親である貫二が複数の女性と性的関係を持っていることはマスコミを通じて広く日本社会の知れるところであり、当然宏美も不倫している父親の娘として同級生達に扱われた。

宏美は何度か良家の子女たちから陰湿ないじめにあい、学校に通わなくなっていった。彼女はマンションに閉じこもり、当時日本で流行っていた家庭用テレビゲームと漫画、アニメにはまっていった。山形県内の大手物流企業経営者の娘である宏美の母は、スキャンダルの取材に来ていたテレビ局の記者と性関係を結ぶようになった。宏美は昼過ぎに起きてから夜明けに眠るまで、テレビ画面をあいてに一人で遊ぶようになった。

彼女はパズルゲームなど女性を対象にしたゲームにはあまり興味を示さなかった。宏美は男の子を対象とした暴力的アクションゲーム、あるいは戦略シミュレーションゲームを好んだ。当時の日本では年齢規制もなく、宏美は朝から晩まで銃で人を撃ち殺したり、怪物を蹴りまくって画面を緑色の鮮血で埋め尽くしたりしていた。

数ヶ月で市販の家庭用テレビゲームをやり尽した宏美は、父親の書斎にあったパソコンの前に一日中座るようになった。彼女はインターネットで海外のサイトに接続し、オンラインのサバイバルゲームを楽しむようになった。特殊部隊の戦闘員となった宏美は、アメリカ人や韓国人のチームメンバーとともに、銃を持ち、屋外のサバイバル戦を楽しんだ。毎日欠かさずゲームを続けた宏美は数千人いる利用者のうち、通算成績でトップに躍り出た。十四歳の中学生だというと、ネットプレーヤーたちは驚いた。サバイバルゲームの開発者は、宏美にゲームプログラマーとなることをすすめた。翌日から宏美はそのサイトを訪問しなくなった。
 
宏美は様々なオンラインゲームを始めて、トップの成績に立つと、別のゲームにチャレンジするという遊びを繰り返した。

オンラインゲームもまた自分の居場所ではないと気づいた宏美は、偶然見つけたネット上の仮想空間で遊び出した。コンピューターグラフィックで構築された3次元空間の住人となった宏美は、自分の土地を確保し、そこにプログラムを書いて作り上げた迷路を作り上げた。宏美は迷路を楽しむ来訪者用に世界中の銃火器と戦闘服、レーダー探知機、軍隊用非常食等のサバイバル・グッズを用意した。宏美は迷路の中での殺し合いゲームを訪問者に提供した。訪問者達は迷路に入る前に、宏美が売り出している武器か自分達で用意してきた武器を装備した。入り口の売店で売上を伸ばしていたのは、数百種類ある細部まで作りこまれた武器よりも、負傷を表現した666種類のアクションパーツの方だった。

来訪者たちは自分が攻撃を受けて傷を負うことを想定し、負傷のアクションパーツを購入した。迷路に入る前にアクションパーツを身につけておけば、特定の攻撃によって負傷のアクションが動作を始める。刃物で切り付けられれば血が飛ぶし、激しく殴られれば顔が赤黒くなってへこむ。カメラをズームにした時の皮膚の損傷具合を現実よりもグロテスクだった。人間の皮膚をコンピュータで再現するには細部にわたる作りこみの技術が必要だったが、宏美は傷口の生々しさを誰よりも不気味に再現することができた。宏美が作った負傷のアクションギミックは、宏美所有の迷路内でしか動作しなかったため、来訪者の数は上昇を続けた。

迷路の中では首切り、皮膚はがし、体の分解など体罰、拷問行為が多数行われた。自ら残酷な拷問の犠牲になる訪問者がいることは、大多数の人から奇妙な現象と見られた。現実の生活ではなかなか味わえない単純な死以上の恐怖と苦痛を体感できる宏美の迷路は、しかし熱烈な愛好者を獲得していた。

迷路の中で性暴力のプレイも流行し始めた。宏美は血や内臓液を描写するのと同じ技巧で、男女の精液や糞尿をグラフィック化した。来訪者は迷路の角から突然現れる殺人鬼におびえながらも、ハードなセックスの相手を求めて、迷路の中をさまよった。

一部紙媒体のマスコミからも宏美の迷路が注目されるようになると、仮想世界の運営会社は、迷路の閉鎖と宏美のログインIDを永久追放することを決定した。迷路遊びに飽き始めていた宏美は抗議することなくその仮想世界から姿を消した。迷路の利用者たちは、運営会社に対してサイトへの攻撃等含めた猛抗議を開始したが、ログイン情報を握られている彼らはサイト立ち入り禁止に設定されていった。
posted by 野尻有希 at 14:18 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小説「対セカンドライフ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月22日

連載小説『セカンドデス』(1)ロシア連邦保安局報告書



日本における情報技術の軍事応用研究報告書
文書管理番号 S070800356
検収 ロシア連邦保安局極東情報管理第二課
検収日 2007年10月31日
作成者 ウラジミール・ドストエフスキー少佐

当報告書では、日本人技術者の発案によって構築されたインターネット上の3D仮想空間、セカンドデスの発展経緯及び今後の軍事利用可能性について考察する。

率直に言ってセカンドデスはアメリカが構想している日本海からインド洋にかけてのアジア防衛構想にとって脅威となる情報技術であるが、日本政府はセカンドデスの技術を自国の安全保障のために活かしていない。

セカンドデスの開発者周辺には我々をはじめ各国の情報機関が接近し、技術提携をもくろんでいる。セカンドデスの中核技術及び開発基本理念をロシアの手中に収め、軍事および民間人管理に応用することで、周辺諸国及び敵対国に対する大きな脅威となることは確実である。

セカンドデスは、インターネット上によくある3D仮想空間の一種である。セカンドデスの中に入るためには、専用ソフトとユーザー登録が必要となる。どちらもセカンドデスの公式サイト内に無料で提供されている。

自身のパーソナルコンピューターにインストールしたセカンドデスを起動すると、真っ黒なログイン画面が立ち上がる。

ユーザー自身が作成したログイン用の氏名とパスワードを入力すると、ユーザーは無事セカンドデスにログインすることができる。

ネット上の3D仮想空間はアメリカを中心に数多く開発されている。他の仮想空間とセカンドデスとの最大の違いは、倫理性の程度である。

セカンドデスではユーザーが、たいていの仮想空間では自主的に制限されている犯罪的暴力を自由に振るうことができる。パンチ、キック、刃物による殺傷、脅迫、強盗、強姦、誘拐、虐待、監禁、拷問などユーザーはあらゆる動作を選択可能である。

初期セカンドデスにおける移動可能範囲は、東京都内主要都市の一つ、新宿駅前周辺に限られていた。
posted by 野尻有希 at 10:41 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小説「対セカンドライフ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月16日

日本語版セカンドライフ未発達に感じる9年前のインターネット事情

セカンドライフでは行きたい場所をキーワード検索すれば、テレポートによって、外国にすぐ行ける。ここらへんはグーグルで外国サイトを検索する感覚に近い。

外国に行くと、日本はまだまだ未発達だなと思う。外国のセクシースポットには、遊び人がたくさんたむろしているし、面白いグッズもたくさん売られている。日本のカブキやススキノにいっても、まず人が全然少ない。街ががらんとしていてなんだか寂しい。企業の建物もがらんとしていて、寂しい。ここらへんの負けてる感は、9年前のインターネットとよく似ていると思う。当時日本のホームページはださださだった。ネットやっている人も少なかったが、外国のサイトはすでにやたらめったら充実していた。

現在では、ネットで外国のサイトを見ても、あまり引け目を感じない。日本のネットがものすごく発達してしまったからである。だいたい犯罪が発達具合の目安になる。ネットの自殺サイトで自殺したい人を呼び、自殺させてしまう。ネットで知り合った幼女を監禁する。こうした見えない闇の部分が広まるということは、ネットが発展している証拠である。9年前は、ネットの限界が見えていた。全てが見通せていた。今、日本のインターネットはどこで何が行われているのかよくわからないほど膨張した。故に外国のネットワークに対しても、引け目を感じない。日本のセカンドライフはベータ版がようやくスタートしたばかりで、外国の遊び場と比較すると、ごんごん引け目を感じる。

セカンドライフで知り合った同士で、犯罪なり誘拐なり事件が起きたりする頃、セカンドライフもようやく日本社会に根づいたと呼べるだろう。
posted by 野尻有希 at 23:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小説「対セカンドライフ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月15日

セカンドライフにおける性と愛

前回の探検で、セカンドライフ内ではインターネット並みに性情報が溢れていることがわかった。成年以上のチェックボックスにチェックを入れれば、検索ですぐにセックス情報が手に入る。

また、無料で買い物できる人気スポットを歩いていたら、近くの通行人から、セックスゾーンへのテレポーテーション案内状をもらった。ここらへんは、繁華街を歩いていたら客引きのお兄ちゃんにつかまるみたいな感じで、妙にリアルでもある。

フリーセックスの聖地に行けば、お金と交渉力さえあればすぐにセックスできる。まあセカンドライフ内でセックスしても、エイズの心配もないし、妊娠の可能性もないし、きわめて安全である。生殖と結びつかないセックス。

セカンドライフでは、誰でも好きなときに写真を撮ることができる。フリーセックスゾーンに行って危険なことと言えば、誰かパパラッチにセックス中の現場写真を取られて、現実世界でもばらまかれることだ。有名人が偽名でセカンドライフにログインし、フリーセックスランドでやり放題だった、なんてスクープ画像ファイルがネット上に出まわる日が来るかもしれない。

そんな奔放なセックスがある一方で、当然純真でほほえましい性の営みもある。広場で異性とチャット(本当の性別はわからないけれどね)。チャットによって仲良くなれば、手をつないで歩いたり、キスしたりもできる。はては、どこか静かな浜辺で、二人でセックスなんてこともありうる(性に関する動作アニメーションアイテムは、いろんな場所で配られている)。

現実と同じように、フリーセックスゾーンでセックスするのと、チャットを積み重ねた上で恋人みたいな関係になるのとでは、全然面白みというか重みが違うだろう。セカンドライフ内では結婚式場もある。ミクシで出会って結婚した人がいるんだから、日本でもセカンドライフ内の出会いで、結婚する人が出るかもしれない。セカンドライフ内結婚式場は豪華なつくりだし、友人の挙式に参加すると、リアルの結婚式に参加した時並みの感動があるという。

posted by 野尻有希 at 23:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小説「対セカンドライフ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月14日

セカンドライフ体験記(2)女性との初めての会話、セックスエリアへの潜入

photo
セカンドライフを楽しむ本
河出書房新社 LINZOO Ringo Jinn Lyne
河出書房新社 2007-09-21
おすすめ平均 star
star面白情報満載!
star楽しみ方が分かりやすい
star忙しい方にピッタリの本

セカンドライフで作る リンデンスクリプト入門(CDROM付) (セカンドライフアーキテクト育成SCRIPTING series 1) セカンドライフ 歩き方ハンドブック セカンドライフの作り方 (バーチャルワールドガイドブックシリーズ) セカンドライフ Linden Scripting Language プログラミング入門 (バーチャルワールドガイドブックシリーズ) (バーチャルワールドガイドブックシリーズ) セカンドライフ公式ガイド Second life the official guide

by G-Tools , 2007/10/14



セカンドライフスタート2日目。上の本を買って、環境設定の本を学んだ。メルティングポッツ内のベンチに座って、環境設定を試みていると、「こんにちは」というメッセージが表示される。カメラを動かすと、ポニーテールの可愛らしい女性キャラが声をかけてくれていた。僕も「こんにちは」と言葉を返す。そこからセカンドライフ内はじめての会話が始まった。

なんだか知らないけれど、ものすごくドキドキする、高校生の男の子が知らない年上のきれいな女性に初めて声をかけられたような心臓の高まり。何よりチャットの操作方法をよくわかっていないので、相手に失礼のないように、急いでキーボードを打つ。キーボードをうっていると、ポリゴンのキャラもキーボードをうつ。かつかつかつというキーを叩く音も聞こえる。相手がキーを打っているということもわかって、待ち時間が楽しい。言葉を打ち終えると、自分のキャラが相手の顔を向く。しばらく話が進むと、相手が僕の隣に座ってくれた。なんだか意味もなくドキドキ。

いろいろ買い物に行きたいといったら、フリーで変えるスポットに案内してくれた。彼女(リアルに女性とはわからないけれど)とは友達にもなった。買い物途中案内してくれと頼んだ方がいいかなとも思ったけれど、なんだかおしつけがましいので、一人で無料の買い物を楽しむ旨を伝えたら、彼女はすぐにログオフした。ああ、やっぱり案内してもらった方がよかったかなと思いながら無料の買い物を楽しむ。

あのコミュニケーションのドキドキ感、ここ数ヶ月味わったことがなかった。3Dキャラが動いていくだけに、チャットやミクシで話すのとは現実感が違う。

続いて歌舞伎町に行ってみる。検索してひっかかったセカンドライフ内の歌舞伎町は人も少なく、薄暗く閑散としている。キャバクラに入ってみても、女の子はいない。リンデンドルを払わないと、女性が現れてこない仕組みのようだ。まだバイトもしていないし、もち金ゼロの僕は、続いてススキノに行ってみる。ススキノのは「フリーセックスジャパン」というスポットがあった。ここでもお金を払えば、セックスできそうなんだけど、またお金がないので諦める。なんだかここら辺は現実と同じで厳しい。一人で体位のモノマネみたいなことはできるんだけど。

成人以上にチェックを入れて、「sex」で検索をかけると、セックスができるスポットがたくさん表示される。セカンドライフは安全に注意が払われているようだが、ここら辺の防御レベルはグーグルと同じ程度のようだ。検索結果であがってきた外国のフリーセックスゾーンに行ったら、すさまじかった。サド侯爵の館みたいな西洋洋館の室内で、拘束具やらいろいろな大人のおもちゃが転がっている。踊り場では裸の男女が踊り狂っている。床ではさすがに少なかったけれど数人の男女がねっころがってセックスしている。その場に居る人と交渉すれば、お金を払わずともセックスできるのかもしれないけれど、英語はできないし、お金もないしで、結局僕は裸になって踊ってうさを晴らした。

とりあえずあの館はアンモラルですさまじい。これを体験した後だと、歌舞伎町もすすきのもまだまだ甘いと思える。世界の資本家はやっぱりすさまじい快楽を体験しているのだと村上龍的に悔しがって今日の探索は終了。

今日の結論。セカンドライフはウェブより安全規制が施されていると、ガイドブックを読んでいた頃は思っていたが、実際はグーグル並みにyるい。成人にチェックをいれて、危ない言葉で検索すれば、すぐにすさまじいスポットが表示されるし、すぐにワープ可能だ。女性キャラと会話を楽しんでドキドキするのも自由だし、極限の快楽スポットに行って、遊び倒すのも自由。ビジネスをするのも自由。殺人できる場所があるかどうか、イデオロギッシュな場所があるかどうか、明日以降村上龍的に探してみようと思う。


posted by 野尻有希 at 22:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小説「対セカンドライフ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

セカンドライフを始めてみた。感想

photo
早期参入企業から学ぶ セカンドライフビジネスの始め方
株式会社メルティングドッツ 浅枝大志
アスキー 2007-08-09

セカンドライフの作り方 (バーチャルワールドガイドブックシリーズ) セカンドライフで作る リンデンスクリプト入門(CDROM付) (セカンドライフアーキテクト育成SCRIPTING series 1) セカンドライフ メタバースビジネス セカンドライフの儲け方 (セカンドライフ簡単登録講座CD-R付) ウェブ仮想社会「セカンドライフ」 ネットビジネスの新大陸 (アスキー新書 8)

by G-Tools , 2007/10/14



ネット上の仮想3D世界の構築に関する小説を書くことにした。自分自身オンラインゲームもセカンドライフも興味はあるがやったことがなかった。ゲーム画面上で見ず知らずの人とコミュニケーションをするのが怖かったからである。しかし、仮想世界を舞台に小説を書くのに実体験がなくてはだめだと思い、セカンドライフの本をまず書店で購入。すぐにメルティングドッツという支援サイトを通じて日本語版セカンドライフに入ってみた。

http://meltingdots.com/

(メルティングドッツはセカンドライフを紹介するニュース番組や経済誌でもたびたびとりあげられていたネットベンチャーである。)

さて、実際に入ってみて感想は、面白いの一言。メディアではそんなに面白くないとか、危険だとか、いろいろ悪口が書かれていた。私自身仮想世界未体験で恐怖感があったけれど、中に入ると面白くてしょうがない。パソコンのスペックが足りず、ソフトが動かないのではないかという懸念もあったけれど、時々動きが遅くなるだけで、それほど困ることはなかった。

スタート地点に着くと、私のほかに何人も人がいるし、その後もぞろぞろ人が入ってくる。画面上で動いている3Dの人間が全部リアルなユーザーの分身かと思うと、ドキドキしてくる。歩いているだけで楽しい。知らない世界が広がっているからだ。子どもみたいな気分になれる。

3Dゲームだと、攻撃ボタンが必ずあるのだが、セカンドライフでは物体を破壊することができない。周りの人から攻撃されることもない。これはセカンドライフを運営しているリンデンラボがビッグシックスと呼ばれる社会ルールを設定しているためで、他人に危害を加える人、迷惑行為を繰り返す人は、ログインIDを削除されるという。

インターネットは危険だと言われるけれど、セカンドライフはとりあえず安心だ。もちろん危険が現実社会並みにあってもいいのだろうけれど、歩いていて襲われない程度の安全だけは確保して欲しいし、そうした最低限の安全保障がないとバーチャル世界自体がユーザー数を拡大できないだろう。

自分の容姿を事細かに設定変更できる。目、髪、体型、服の色、形状、鼻、唇、あご、下着、肌の色、本当にいろいろ設定できる。自由だ。設定変更しているだけでとても楽しい。

まだまだ始めたばかりで、メルティンドッグ島から外に出ていない。毎日はまりそうだ。この歩き回る楽しさに溺れていると、小説は書けないかもしれないが、少なくともメディアで批判されているほど、セカンドライフは悪いものじゃない。想像以上に楽しい。なんといっても自由を体感できる。
posted by 野尻有希 at 13:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小説「対セカンドライフ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする