2009年11月13日

小説小説「マジカルSFアイデンティティー」付録2:推敲の過程でカットした箇所

連載が終了したマジックリアリズムSF小説『マジカルSFアイデンティティー』。今日は付録2として、推敲の過程でカットした箇所を3編掲載します。

(草稿1)
 僕自身に、権力は感じられない。僕の周りには、みかる、ヌース、バイオスなど強力な存在がたくさんいる。しかし、アリにとって僕は、強力でおそろしい権力者ではないか。僕はアリをふみつぶすことができる。たたきつぶすことができる。僕はアリにとって、凶悪で暴力的な生物、破壊者であり、神だ。

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2009年11月11日

小説「マジカルSFアイデンティティー」付録1:全体の要旨

小説『マジカルSFアイデンティテイー』の連載が終了しましたので、付録1として、全体の要旨を掲載します。

『マジカルSFアイデンティティー』連載中、ディックの『ヴァリス』から強い影響を受けたことを告白します。

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ヴァリス (創元推理文庫)
Philip K Dick
東京創元社 1990-06
おすすめ平均 star
starLOSTで
star難解だけど
star異色の宗教SF
star前衛小説なのかも
star。。。

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314) パーマー・エルドリッチの三つの聖痕 (ハヤカワ文庫 SF (590)) 流れよわが涙、と警官は言った (ハヤカワ文庫SF) 火星のタイム・スリップ (ハヤカワ文庫 SF 396) 去年を待ちながら (創元推理文庫)

by G-Tools , 2009/11/11


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2009年11月10日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ23)(最終話)ヨハネの黙示録

ペルソナ23 ヨハネの黙示録


 秋葉原にみかると一緒に行った日、フィギュアショップで出会ったヌースのヘルプもむなしく、シュレーディンガーの猫を探し出すことはできなかった。
 その日の夜、人気アイドル市丸電子が、自宅のマンションから飛び降り自殺したというニュースが流れた。

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ティンデル聖書注解 ヨハネの黙示録
Leon Morris
いのちのことば社 2004-10
おすすめ平均 star
star逐語釈に感動

テモテへの手紙、テトスへの手紙 (ティンデル聖書注解) マルコの福音書 (ティンデル聖書注解) ヨハネの福音書 (ティンデル聖書注解) コリント人への手紙第1 (ティンデル聖書注解) コリント人への手紙第2 (ティンデル聖書注解)

by G-Tools , 2009/11/10

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2009年11月09日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ22)キメラとかマジカルSFアイデンティティーとかたくさん出てきました

 先程コーヒーを持ってきてくれたジャージ姿の美人先生が、どんぶりを三つ運んできた。
「はい、できたてのどんぶりでーす」
 テーブルに大きなどんぶりが並ぶ。
「牛カルビ丼と親子丼と豚角煮丼があります。よかったら、お好きなものを召し上がってください」
「ちょっと待って。この中にさっき階段でぶつかったあの親子丼がいるんじゃないの?」
 市丸電子が嫌そうな顔をする。

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EMOTION the Best 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man [DVD]
バンダイビジュアル 2009-10-27

EMOTION the Best 攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG Individual Eleven [DVD] EMOTION the Best 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society [DVD] EMOTION the Best GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 [DVD] EMOTION the Best WXIII 機動警察パトレイバー [DVD] EMOTION the Best 機動警察パトレイバー2 the Movie [DVD]

by G-Tools , 2009/11/10


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2009年11月08日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ21)三つ目の校長先生と話しました

ペルソナ21 ミツメ量子


 教務員室前は、他の区域の喧騒に比べて、静かだった。
「親子丼の言った教育委員会というのが、僕たち開発者の側をさすなら、教育委員会に内緒でヨハネの黙示録開発を進めたという校長先生が、勝手に人工生命のプログラムを改竄してるかもしれないな」

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攻殻機動隊 (2) KCデラックス
講談社 2001-06-28

攻殻機動隊 (1)    KCデラックス 攻殻機動隊1.5―HUMAN ERROR PROCESSER (KCデラックス (2453)) 攻殻機動隊1.5 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 凍える機械 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 眠り男の棺 (徳間デュアル文庫)

by G-Tools , 2009/11/08


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2009年11月07日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ20)親子丼との対話

ペルソナ20 親子丼との対話

「ちょっと二人とも。練習再開しないと。時間は限られてるんだから」
 ステージ練習終了後、エヴァとハンナに指示を出していた男子生徒が近寄ってきた。近くに来てみて、彼がヌースの飼っているマルティンだと気づいた。そういえば、マルティンは、自分自身アドルフと一緒に歌う予定があるけど、エヴァとハンナの演出監督も担当していたんだった。


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2009年11月05日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ19)等身大フィギュアが通う仮想現実空間内の高校

 スモッグが晴れると、僕は先ほどまでの部屋とは別の個室にいた。壁に黒板がある。小さな部屋の真ん中にある机に、市丸電子が学生服を着て座っていた。紺のブレザーに水色のチェックのスカート。人工生命高校の女子生徒用に、プロのアニメーターが作った制服と同じデザインだ。

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2009年11月03日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ18)女の子になったシュレーディンガーの猫と話しました


 便器の水の中に入り込む。悪臭はないし、汚物もない。足をばたつかせて、手をかいて、奥に進む。
 目を開くと、はるか先に、女の子が暮らしていそうな部屋が見える。ベッド、デスク、パソコン、クローゼット、液晶テレビが見える。あの部屋が目的地だろうか。


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2009年11月01日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ17)女医とマクスウェルの悪魔

「案内役の女医さんが、マクスウェルの悪魔って言ってましたよね。シュレーディンガーの猫の他にマクスウェルの悪魔もいるんですか?」

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宇宙を復号する―量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号
林 大
早川書房 2007-09-21
おすすめ平均 star
star良書です。
star科学読み物では久々のヒット
starポピュラー・サイエンスの良書 (ちょっとお値段高め)
star情報理論と宇宙論・量子論の結合

宇宙をプログラムする宇宙―いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか? 異端の数ゼロ―数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念 量子が変える情報の宇宙 迷走する物理学 量子コンピュータとは何か

by G-Tools , 2009/11/01



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2009年10月31日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ16)黒いアイドル市丸電子とナース

 シュレーディンガーの猫を探しながら、大通りまで戻った。店の目印がどんなものかは、さっぱりしらない。「シュレーディンガーの猫」と書かれた看板が出ているとも思えない。きっと何の札もない雑居ビルの個室が、シュレーディンガーの猫なのだろう。
 誰かの紹介がないと入れないビップ御用達の会員制クリニック。後もう少しだ。時間を惜しまず心をこめて探せば、秘密のクリニックにたどりつけるだろうか。

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2009年10月30日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ15)彼女と黄金どくろと一緒に猫耳メイド喫茶に行きました

 有休をとって、みかると同じ日に仕事を休んだ。十時に中野を出発して、秋葉原に向かう。久々の秋葉原だ。駅につくと、オタク風の人がたくさんいる。歩道にはメイドがたくさん立っていて、ご主人様たちにびらを配っている。



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小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ14)彼女と秋葉原に行こうとしたら、夢の中でシュレーディンガーの猫が・・・

「お帰り。どうだった? ちゃんとサイト見てくれた?」
 マンションに帰ると、早速みかるが尋ねてきた。
「ああ。仕事中だったから、お偉いさんに注意されそうになったけどね」
「これ見て、地図だよ」
 みかるが、A4縦一枚のプリンタ用紙を差し出した。ネット上で拾ってきたのだろう、秋葉原の地図が印刷されている。大通りからそれた脇道に赤いボールペンで星印がつけられている。

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シュレディンガーの猫耳少女 レポート1
ジーエスアイ クレオス 2009-12-25

リネージュ2 エルフ (1/7スケールPVC塗装済み完成品) figma Phantom~Requiem for the Phantom~ アイン けいおん! 秋山澪 (1/10スケールPVC塗装済み完成品) エクセレントモデルCORE マクロスF<フロンティア> シェリル・ノーム N.A Ver. ブリリアントステージシリーズ 「ヨスガノソラ」 春日野 穹

by G-Tools , 2009/10/30


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2009年10月29日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ13)人工生命美少女に阿修羅コンプレックスを発症させる企画

 金曜の昼休みは、定食チェーン店でうなぎ丼を食べた。土用の丑の日だからか、うなぎ丼はスペシャル価格五百九十円で売られていた。
 たれをたっぷり塗られたうなぎの蒲焼を口に入れる。このうなぎは日本の川で生きていたものか、中国の川で生きていたものか。

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「国宝阿修羅展」のすべてを楽しむ公式ガイドブック (ぴあMOOK)
ぴあ 2009-03-19
おすすめ平均 star
starいろいろな角度から阿修羅像を見れます。
star情報誌「ぴあ」らしい良い編集内容

魅惑の仏像 阿修羅―奈良・興福寺 (めだかの本) BRUTUS (ブルータス) 2009年 4/15号 [雑誌] 一個人 (いっこじん) 2009年 06月号 [雑誌] 阿修羅を究める NHK-DVD 阿修羅~天平の謎を追う

by G-Tools , 2009/10/29

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2009年10月28日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ12)人工生命の美少女が恥ずかしがりました

 キツネの姿をした天才ミレニアム・フォックスと、どくろコンプレックスのヌースは仲が悪い。ミレニアム・フォックスはハリウッドの大作SF映画が好きだが、ヌースはハリウッドの大作主義を軽蔑している。ヌースはゴダール、ベルイマン、アントニオーニ、タルコフスキーなど、ヨーロッパ映画が好きなスノッブだ。二人は趣味が噛み合わないが、人工生命の美少女好きという点では、共通している。


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2009年10月26日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ11)アイドルの市丸電子が阿修羅化しました

 会社の昼休み、いつものベーカリーで食事をした。さんざん迷った挙句、から揚げカレーパンとチョココロネとアイスラテを注文した。
 から揚げカレーパンのおいてある棚には、「親子対決」と書かれている。カレーの中に、鳥の卵が入っているらしい。カレーに包まれているから揚げが親、カレーのルーに入っている卵が子。親子対決。人間という無慈悲で強大な地球の独裁者が命名した、商品キャッチコピー。


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2009年10月25日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ10)阿修羅化したインドラ

 僕の会社にも一人、阿修羅コンプレックスの発症者がいる。歴史想像チームのインドラという先輩だ。インド神話において、アシュラ神はインドラ神と永遠に戦い続ける運命にある。そんなインドラが、阿修羅コンプレックスにかかり、手六本、顔三個の姿になるとは黙示録的状況だ。続きを読む
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2009年10月21日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ9)汝の敵を愛せよホルモン娘

雪子:連載小説「マジカルSFアイデンティティー」の連載9回目だ。
嵐:何だ雪子、うちらは連載小説の前ふりまでやらされるはめになったのか。
雪子:今回の副題は「汝の敵を愛せよホルモン娘」。ホルモンが出てくるらしい。
嵐:おーい、私の話、聞こえてるか?
雪子:小説の物語もいよいよ中盤にさしかかってきた。読んだことない奴は読んでおけ。
嵐:姉のことを無視するとは、お前、ひどすぎるぞ。
雪子:バカの相手はする必要はないんだよ。
嵐:おーいみんなー、ここにひどい小学生がいるぞ。
雪子:だまってろよバカヤロー。
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2009年10月18日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ8)牛男と女教師

 明け方にまた嫌な夢を見た。今度の夢で僕は、女教師になっていた。夢の中で自分の性別が変わり、かつ別の仕事をしている夢を見るなんて、初めてのことだ。気味が悪い。

〜〜〜

 終業式の日、学校の給食に焼肉が出た。クラスの生徒たちは、いつにない豪華な料理を喜んだ。
 金属製の食器に、焼きたての牛肉がたっぷり盛られている。大人の私からすれば、焼肉くらいでこんなに喜ぶのは奇妙に見える。ただ、毎日の味気ないこんだてと比べれば、生徒たちが焼肉で盛り上がる気持ちもわかる。
 みんなでわいわい楽しみながら、冬休み前最後の給食を楽しんでいたら、遠くの方から銃声が聞こえた。
 教室から喧騒が消えた。
 生徒の間で緊張が高まる。
 黒板側のドアが乱暴に開けられた。銃を持ち、バイクのヘルメットをかぶった男たちが、教室に入ってきた。
「全員動くな!」
 男の一人が野太い声を出した。生徒たちに銃口が向けられる。女生徒の何名かが悲鳴をあげる。
「声も出すな! 動いたら撃つぞ! 黙って座ってろ」
 生徒たちは箸に焼肉を持ったまま、かたまった。
 私は黒板前の教卓に座って、生徒と同じように給食を食べていた。私のすぐ隣に、サブマシンガンを持った男が来た。サブマシンガンの銃口が、私の頭に当てられる。
「うちの生徒を殺したら承知しないからね」
 私は生徒に聞こえる声で宣戦布告した。
 私の頭から銃口が離れた。
 サブマシンガンが、窓の外に向けて撃たれた。銃声が続く。窓ガラスが割れる。
「実弾だ」
 サブマシンガンの銃口がまた、私の頭に当てられた。
「強がるのはやめろ」
 男たちは銃を構えたまま、教室内を歩いて回った。
 生徒たちは好きな者同士で机をくっつけて、給食を食べていた。男子は集団になって大きなグループを形成していた。女子は気のあう者2、3名で小グループを何個も形成していた。誰とも机をつけず、一人で焼肉を食べている生徒もいた。彼ら全員の机の周りを、銃を持った男たちが歩いた。
「お前ら、今何を食ってるかわかるか?」
 男の一人が女子に聞いた。女の子は泣き出してしまった。
「焼肉じゃないの。何か文句あるの?」
 私が答えた。
「貴様ら全員殺す」
 私の頭に銃を当てている男が言った。
 男たちが一斉に銃をかまえる。
 私は立ち上がった。
「待ってよ! 子どもたちを殺す必要はないでしょう。殺す理由は何? 何が目的なの?」
「私たちは、正義の実現を望んでいる。それだけだ」
「焼肉を食べるのが、悪ってわけ?」
 男たちがうなずいた。こいつら、本気で言っているのだろうか。
「焼肉食べてる子どもを殺していいわけ? あなたたちの正義って、そんな身勝手でいいの? そんなの、子どもたちを殺していい理由にならないわ」
「しょうがない。何もわかっていないようだな」
 私の横に立つ男が、バイクのヘルメットを取った。
 彼の顔は、牛だった。着ぐるみではない。田舎の農場にいる、本物の牛の顔だ。
 生徒たちが悲鳴をあげる中、男たち全員がバイクのヘルメットを外した。
 全員、牛だった。
「これで私たちの主張の正当性がわかっただろう。同類を給食にされた報復だ。死んで償え」
 牛男がサブマシンガンの銃口を最前列の生徒に向けた。
「ごめんなさい! もう牛食べません」
 いつもは反抗期ど真ん中の生徒が泣いてあやまった。
「食べるなとは言っていない。必要以上に私たちを殺すな」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
 牛男たちは、あやまる生徒たちに向けて銃を構えた。
 教室に銃声が響いた。
 銃声が、何回も連続する。
 私はかがんで教壇の下に隠れた。生徒たちの絶叫と悲鳴が鳴り響く。
 銃声がやんだ。
 私は顔をあげたくなかった。
「大丈夫ですか」
 廊下から成人男性の声がした。
 おそるおそる教壇から顔を出してみる。
 目を開いてみた。
 牛男たちが全員、血を流して教室に倒れていた。
 教室の中に武装した警官が入ってくる。警官たちは手早く牛の死体を運んでいった。
「とにかくこちらへ」
 私と生徒は武装警官に誘導されて、教室から出た。
 その日起きた事件は、口外禁止となった。
 私は四月から、遠くの学校に赴任することになった。事件の後、担任だったクラスの生徒と会うことは禁じられた。
 テレビや新聞のニュースでは、昼休みの教室に、銃を持った男の集団が乱入したと報じられた。男たちが牛であり、正義の実現のためにテロルを行っていたことは、ネット上の噂にしかならなかった。

(ペルソナ9に続く)

※当小説は、例の如く新人賞に応募して落選した小説です。という前提で、気楽にお楽しみ下さい。
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2009年10月16日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ7)ミレニアム・フォックスと人工生命美少女の運動会

 最近仕事で、人工生命たちの運動会をやっている。僕の家で飼っているエヴァもハンナも、いつのまにか高校生の設定になっていた。誰か学園ラブコメ好きの社員が設定を変更したのだろう。
 各社員が自宅のパソコンでデモ飼育している人工生命の美少女キャラたちが、ネットワーク内に建設されたバーチャルの人工生命高校に集まって、身体強化トレーニングを行っている。腹筋、背筋、腕立て伏せ、ランニング。美少女たちが、臨時でプログラムされたスパルタ体育教師から、熱血指導を受けている。
 人工生命の美少女たちはみなプログラムだから、やろうと思えば空を飛ばせたり、光速で走らせたり、人間の限界を超えた力を簡単に獲得させることができる。身体能力の数値をちょこっと変えてあげれば、すぐにも超人が誕生する。しかし、勝手に数字をいじることはアンフェアであり、美少女たちのバランスを崩す。誰かがこっそり自分の美少女の身体能力パラメーターをいじったら、別の誰かが対抗して更なる強力な強化少女を作成するかもしれない。そうなると、際限がない。今回のプロジェクトの目的は、人間らしい少女の人工生命を開発することだ。なんでも楽々とこなす超人を作ることが、プロジェクトの目的ではない。電脳空間にできたグラウンドを十週したらはあはあへばって、スパルタ教官に陰口を言う人間らしい工生命を作ることこそ、僕らの仕事である。
 誰かが勝手に超人を作ることができないように、身体能力のパラメーターには上限が設けられた。決められた上限以上の数値に改ざんしようとすると、警告メッセージが表示される。警告メッセージを無視して異常値を設定しようとすると、システムから締め出される。不正操作報告書が役員にまでまわり、業績評価に直結する。
 人工生命美少女たちの運動会を企画したのは、人工生命チームのエース、ミレニアム・フォックスだった。
 ミレニアム・フォックスは、人の姿をしたキツネだ。ハリウッドのVFX技術で作られたような、子ども受けしそうな可愛いキツネの顔をしている。いつもキツネの体にチノパンツとストライプのワイシャツを着て、パソコン仕事を続けている。
 キツネが人間の姿になったのだ、あいつは化け狐だという先輩もいるけれど、多分違う。僕は幻像だと思う。
 ミレニアム・フォックスが天才的頭脳によって作り出した幻像。その幻像が、空間に実体化しているのか、僕らの脳神経に信号として送られているのかはわからない。ミレニアムフォックスの体に触ると、キツネの毛並みを確認できるから、やっぱりハリウッド級のVFX技術で作られたぬいぐるみを着ているだけかもしれない。けれど、ミレニアム・フォックスのキツネの外見は、科学的に説明できる気がする。
 ミレニアム・フォックスはいつも、キツネの頭から細いチューブを何本も出して、パソコンのディスクドライブに接続している。フォックスはマウスもキーボードも使わない。脳から伸びたチューブを使って、パソコンのハードディスクにダイレクトに命令を送る。
 マウスもキーボードも長時間使いこむと、神経がまいってくるから、脳神経とパソコンをダイレクトにつないでいるのだという。もちろんダイレクト接続の仕組みは、ミレニアム・フォックスの発明だ。
 株式会社ヴァリシズムには、どくろコンプレックスのヌースをはじめ、知性溢れる人が多いけれど、ミレニアム・フォックスはその中でも格別異能に見える。うちの会社で働いているのがもったいないと思える。
 こんなところで美少女の運動会プログラムを作るのなんかやめて、わが国や世界の平和のために、才能を使えばいいのにとよく思うけれど、フォックスはずっと、人工生命の開発研究に没頭している。僕なんて、こんな美少女キャラをたくさん作っても何のためにもならないと思うのだけれど、ミレニアム・フォックスは違うという。
 今日もミレニアム・フォックスは、キツネの頭から十本近いチューブを出して、パソコンに接続していた。パソコンの液晶画面には、美少女たちの設定パラメーターがグラフ化されて表示されている。美少女たち自身は、机の上に3Dホログラフ映像として実体化している。人気アニメのフィギュアのようになって、デスクの上に並ぶ体操着姿の美少女たち。真面目に仕事をしているとは、とても思えない光景だ。
 ミレニアム・フォックスの顔は真面目というより、集中している感じ。圧迫されている感じはない。強制されている感じもない。自分から進んで、自分の好きなことに熱中している感じ。
「大我、お前のところのエヴァとハンナ、なかなかいい数字を出してるな」
「そうか、ありがとう」
「まあ運動会でよい成績をとることが目的じゃない。運動会を楽しんで、後々まで残る思い出を作ることが目的だ」
「じゃあなんでそんなにスパルタの猛特訓をしてるんだよ」
「ある種のスパルタ教育は、アテナイ的な自由の尊さを再認識させてくれる。強圧は人生の一時期において、生成変化のために必要なものなんだよ」
 僕は近所のコンビ二で買ってきたアイス・バナナ・ティー・オレを飲みながら、特訓の様子を見守った。紙パックの中には、外国でとれたバナナと、紅茶と、牛乳と、砂糖と、化学物質が混ざっていることだろう。一体何カ国の恵みが、バナナ・ティー・オレの中に入っていることか。
 ミレニアム・フォックスの机の上で、体操着姿の美少女たちが踊り始めた。
「これ何?」
「ダンスの時間だ。父兄のみんなは、子どもが運動会で踊る様子を見て楽しむだろ。ダンスに競争はない。美しく踊れる人、表現力の高い人は評価されるけれど、一○○m走のように一位、二位、三位と順位づけされるわけではない。父兄にとっても、ダンスは安心して楽しむことができる花形イベントだ」
「最近の運動会じゃ、競争を嫌って、順位をつけることさえ避けるって言うな」
「生物は生活圏をすみわけている。自分たちの生活圏で、生存のために技術を磨くのが、生命のあり方だ。競争自体が膨大になるのは、文化の暴走でしかない」
 このまま延々と話が続きそうなので、僕は自分のデスクに戻って仕事を続けた。仕事と言っても、ミレニアム・フォックス主催の運動会のお手伝いなわけだが。
 運動会当日のプログラムを制作する。社内イントラネットでつながる同僚たちと、パソコン画面上で運動会の企画を練る。人類の歴史のIFを企画設計している歴史想像チームの人間たちからしたら、僕たち人工生命チームは、美少女相手に遊んでいるとしか見えないだろう。しかし、そうした自己評価の低さは、僕自身の意識から派生した誤解かもしれない。客観的にみてみれば、歴史想像チームのみんなも、僕らと変わらないくだらない仕事しかしていないのかもしれない。
 仕事が真っ当だとかくだらないとか、仕事に意味があるとかないとかは、究極的には決定できず、後付で、後代の人が評価を下すものだろうから、悩まずせっせと運動会のプログラム作りに没頭しよう。
 馬鹿げた仕事のようだけど、こだわると意外に手間取る。美少女キャラたちの肉体疲労を考慮しつつ、観戦する父兄たち(父兄とは僕たち美少女の飼い主のことだ)を飽きさせない、刺激溢れるプログラムを作る必要がある。プログラム作成者それぞれのこだわりがあるから、バイオス、ミレニアム・フォックス、ヌースたちとよく協議して、ベストの案を選ぼうと思う。

(ペルソナ7に続く)

付録:『みなみけおかわり』になったら、『みなみけ』の頃と製作会社が変わるという話を聞いて、多少心配だったけど、見てみたら絵柄の変化が気になったのは1話目くらい、すぐおかわりに慣れました。やはりみなみけ最高。夏奈のように生きたいです。

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by G-Tools , 2009/10/16


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2009年10月14日

小説「マジカルSFアイデンティティー」(ペルソナ6)どくろコンプレックスのヌース

 みかるの体が気になるから、僕は毎日テレビやネットポータルサイトのニュースをチェックするようになった。
 阿修羅コンプレックスの研究、知識の蓄積は進んでいるけれど、誤解や偏見も多大にあった。阿修羅姿の子どもは、いじめの対象になるし、就職でも不利になる。職場でも差別がある。
 六本腕で、三面相の阿修羅コンプレックス患者を、普通の人々は怖がる。怖がるから、いじめる。自分たちから遠ざけようとする。阿修羅コンプレックスで悩む人たちを愛そうとする人はごくわずかだ。
 ニュースの知識を溜めこんでも、暗い気持ちに落ちこむことの方が多かった。阿修羅にまつわるニュースなど見るのをやめようかと何度も思った。
 知識よりも、目の前にいるみかるに愛らしく接することの方が重要だと、わかっている。ただし、知識に一歩も触れないのもよくない。誤解に基づいて、みかるに間違った接し方をしてしまうかもしれない。彼女のためによかれと思ってとった行動が、阿修羅コンプレックスの悪化を招く行動になるかもしれない。あやまちを防ぐには、知識を仕入れることだ。
 僕の会社にどくろコンプレックスの先輩がいる。先輩のあだ名はヌース。ヌースの体は骨だけでできている。骸骨の体にスーツをまとって、ヌースは出社する。しゃれこうべの頭に金髪が生えている。元は黒髪だが、ドラッグストアで買ったスプレーで、金髪にしたらしい。
 阿修羅コンプレックスの患者は世界中にたくさんいるが、どくろコンプレックスの患者なんて、ヌースしか知らない。どくろコンプレックスというのも、冗談でついた病名だ。そもそも病気なのかどうかもあやしい。病気ではなく、幻覚を見ているだけかもしれない。僕がヴァリシズムに転職してきた時から、ヌースはどくろの姿をしていた。
「あの変なの、何?」
 入社数日後、僕は上司のバイオスに聞いてみた。
「ヌース。どくろコンプレックスだよ」
「どくろコンプレックス? 何それ」
「血と肉を持って生きていることに対する、深い実存的コンプレックスなんだって、ヌース本人が嘯いてたけどね」
 バイオスは上司だし、僕より年上だけれど、僕はタメ口で話す。全員がフラットに意見を言い合えて、能力を発揮し合える社会を、株式会社ヴァリシズムは理想として掲げている。
 バイオスの話を聞いて、最初は新入社員をもてあそぶ冗談かと思ったが、どうも毎日どくろ姿で出社するのは、本当らしい。無神論者の多いヴァリシズム社内では、ヌースは科学技術を使ってどくろの姿をしているのだと噂がたっている。昆虫が擬態するように、本当は血と肉があるのに、骨だけであるかのように装う。何のために? 理由はわからない。ヌース本人も理由を知っているとは言わない。
 ヌースは僕と同じ、人工生命チームに属している。人工生命チームの一番壁側の席で、毎日黄金色にデコレートしたデスクトップパソコンをいじっている。
 ヴァリシズムに入社するまで、人工生命を英語でどういうのか知らなかった。人工生命は、英語でアーティフィシャル・ライフという。人の技術によって作られた生命体。人工知能、AIは、英語でアーティフィシャル・インテリジェンスという。
「自然でなく、神の手にもよらず、人の手によって形成された人工生命の美少女たちは、パソコンの中で自由気ままに振舞う。しかし、彼女たちの一見自由に見える振る舞いは、人間が設計したプログラムに基づいている。俺たち人間も、自由気ままに生活しているようで、ある一定の習慣に基づいて毎日生活している。知性も、生活もそうだ。俺たちはプログラミングされた思考、生活を毎日繰り返している。同時にまた、自分たち自身で、自分のプログラムを書き換えている。俺たちは人間などではなく、アーティフィシャル・ライフであり、アーティフィシャル・インテリジェンスではないだろうか」
 飲みに行くと、ヌースはこんな感じの話をいつもする。僕とヌースは、会社の飲み仲間である。
「大我、行くぞ」
 今日もまた、ヌースに飲みに誘われえた。骨だけでできているヌースは食事をしないし、酒も飲まないが、飲み屋には行きたがる。
 僕はヌースと一緒に、会社の最寄駅前の居酒屋チェーンに入った。生ビールとかにサラダと豚キムチを注文する。ヌースは食事をせず、僕だけが食物とアルコールを摂取する。
「乾杯」
 ヌースはいつもグラスワインを注文する。口はつけない。乾杯だけして、後はグラスに入った赤ワインを転がすだけだ。
 店員さんも、ヌースのどくろ顔を見ても驚かない。周りの客で、ヌースを初めて見る人は、驚いた顔をする。みんな映画の撮影か何かと勘違いする。しかし、ヌースは本当にどくろなのだ。毎日ヌースと通勤電車が一緒になっている人は気づいている。彼が人々を面白がせるためでなく、日常的に、どくろの姿をとっていることを。
「大我は仕事、楽しいか?」
「楽しいとは答えたくないな。働いていて、楽しくないこともないけれど、楽しいと断言できるわけでもない」
「断言できないなら、断言してしまえ。断言した瞬間から認識が変わる。おまえ自身の言葉によって、世界の現象自体が変化し始める」
「神秘主義は嫌いだ! て断言してみるよ」
「俺に向けてそう断言するのは馬鹿げている。俺は異形のどくろコンプレックスなんだからな」
「ヌースは仕事が楽しいのか?」
「楽しい楽しくないという次元から、俺はもう超越した。世界は俺が作り出している。世界が平和で幸せに満ちたものなのか、苦渋と不幸の現実なのかは、俺自身の意識によって、確定される」
「お前がどくろの姿になっているのも、おまえ自身がどくろになろうと決めたせいか? ならヌース、お前は何でも実現できる神じゃないか」
「神なんてこの世界にいない。とうの昔に死体になって散らばっている。俺たちが今暮らしている現代世界は、納豆のように発酵した神の死体の上にできあがっているんだ」
「ぶどうが発酵してワインになるみたいに、この世界はゾンビ化した神の体によってできていると?」
「そうだ。ゾンビの体の上で俺たちは、毎日楽しくなるように踊っているだけだ。俺はもう踊るのをやめて、どくろになることにした。あゆむはまだ踊り続けたらいい。生きるとは踊ることだ」
 ヌースのしゃれこうべの左目のくぼみに、赤い蛇の頭が見えた。幻覚だろうか。あるいは、ヌースが僕の脳内に赤い蛇の映像情報を送りこんでいるのだろうか。
「ヌース、お前は踊るのをやめようと思った途端にどくろになることができるのか。そんな異常な力を持っているなら、やっぱりお前は神じゃないか」
「神ではない。が、神でもある。人間はみな神だ。神とは情報の創造者だ。お前も俺も会社で美少女の情報を作っているだろう。創造する力が、神だ」
「けれど僕はどくろになれない。阿修羅コンプレックスでもない」
「ないないと思っているうちは、お前はどくろにも阿修羅にもなれない。なれると断言したものだけが、異形の体に擬態することができる」
「やっぱりお前の見かけは擬態なのか」
「社会に溢れている全ての情報が擬態だ。見かけの後ろに隠れている真実をつかまない限り、お前は踊り続けることになる。自分で踊るか、どくろになるかだ」
 ヌースの左目のくぼみに見えていた赤い蛇が頭を隠した。そういえばヌースは眼球もないのに、どうやって僕の体を見ているのだろう。何も見えていないのだろうか。だいたいヌースは骨だけの体で、どうやって声を作り出しているのだろうか。僕が見ているどくろコンプレックスのヌースは、やはり3Dの映像なのだろうか。
 ヌースと別れた後、地下鉄に乗ってマンションに帰った。酔っ払って帰ってきても、みかるは部屋にいなかった。僕はノートパソコンの電源を入れて、今日口にした食事の記録をつけた。
 朝はいつもと同じコーヒーショップでツナと野菜のカンパーニュサンド。昼は肉野菜炒め定食。夜はヌースと飲み屋で食事。今日は鶏肉を避けることができた。しかし、魚の肉、豚の肉、多くの野菜を口に入れた。
 口に入れたものを気にするより、自分の口から出てくるものに注意を払った方がいいのだろうか。僕が自分自身の身体に入力する情報と、世界に向けて出力する情報。
 入力する情報は、口以外の箇所、目、鼻、耳からも入ってくる。僕の目、耳、鼻からは、情報が口ほどには出力されない。もちろん僕の瞳は、多くの人にたくさんの情報を送っている。二人の人間が見つめ合うだけで、語り合うよりもたくさんの情報交換が行われる。しかし、目が語る情報よりも、僕の口が語る情報に気をつけた方がいいのではないか。
 僕の口から出力される情報は、正確には、僕の脳が作り出した情報だ。口から摂取した他の命の情報も、神経網を通して、脳が解釈する。
 おいしい。まずい。お腹いっぱい。まだまだ食べたい。いただきます。ごちそうさまでした。
 口から入力された食事の情報をキャッチして、脳というか神経組織が情報を出力する。
 僕の体中にはりめぐらされた神経のネットワーク。神の経路のネットワーク。
 難しいことを考え始めると、今日取り入れた食物の命に対する感謝の気持ちが薄れてくる。
 考えあぐねるよりも、まず僕が今日僕の体に付け加えた命に感謝しよう。感謝すれば、罪悪感もうすれる。
 また今日も生き延びた。犠牲にした命のためにも、時間を無駄にせず生きていこう。
 断言は危険だけれど、ヌースが言うように、断言によって、世界ができるなら、僕は断言する。僕は命の入出力情報をこれからも記録し続ける。そう断言して、一日を終えよう。

(ペルソナ7に続く)


付録:やっぱりみなみけは最高の名作だ。見やがれバカヤロー
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by G-Tools , 2009/10/14


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